急成長する組織の定理―FinTechであなたの時間を創出する

何が正しいか固く信じる思い、人はそれを信念と呼ぶ。価値観が多様化した現在、誰かが「正しい」と言うものを疑いもなく信じることは簡単な選択だ。そんな時代に道しるべとなり人々を導く存在になるのは、確固たる信念をもつ人物に違いない。


金融系大手ベンチャーキャピタル3社から累計約4億円超の資金調達を完了し、FinTech領域で注目を集める株式会社BearTail代表の黒崎賢一の信じる道とは?



目次

1.偉大な会社となる

  北極星のような会社

  改善総時間

  時間を生み、世を動かす


2.信念の形成

  トップをねらう人生

  影響力の善悪

  生死をかける


3.世を変える組織にあるもの

  信じあう組織の成立

  偉大な会社にある「信じる力」


4.おわりに



偉大な会社となる


北極星のような会社


内緒で貯めたお年玉を握りしめ、意を決して買った2万円のPSP。その小さなデバイスに詰まっていた可能性に惚れ込んだ。ただゲームができるだけの機械では終わらない。自分の手で改造することで、良いものがさらに良くなる。そしてそれをより多くの人へ。毎日ネットをさまよっては情報を仕入れ、夢中で改造に明け暮れた。


筑波大発ベンチャーであるBearTailは、いわゆるFintech市場のなかでも家計簿・経費精算アプリで勝負する。スマートフォンのカメラでレシートを撮影するだけで、あとはオペレーターが人力で手入力してくれるサービスは99%の入力精度を誇る。資産管理に必要なデータを可視化することで、無駄な時間を減らす。「社会の北極星のような存在となり世の中を導く、偉大な会社となる」その思いのもとに集った、少数精鋭のエンジニア集団だ。


代表の黒崎氏は、高校生のころからCNET JapanなどのIT系メディアで最年少ライターとして活躍してきた。海外でローンチされたおもしろいツールを誰よりも早く片っ端から試しては、1日に10本以上の記事を量産し、数百万人の読者にコンテンツを届けてきた。


「(ともに未来を目指す仲間を)お互いが背中を預けることができるほど、信頼しています」


若くして起業し、信念のもとに走りつづける黒崎氏の人生に迫る。


改善総時間


一年を通じて、同じ場所で輝きつづける北極星。道しるべのない旅をするとき、昔の人は北の空を見上げて方角を確認してきた。


BearTailという社名は、創業時に決めた。こぐま座の尻尾に位置する北極星のように、道しるべを示す会社になろうというビジョンがあった。


「もともと無駄な時間を減らそうっていう、そういう思いがあって。こういう風にやれば無駄な時間減るよねってことを示したいと。その方法を示す、道しるべ。という感じで決まりました」


黒崎氏のなかでは、No.1へのこだわりがあったという。1位にこだわった方が、結果として道を示せるのではないか。偉大な会社になるのではないかという思いがあったからだ。トヨタが開発したハイブリッドカー技術をマツダがもらい受けたように、どんな業界でも1位の会社はフォローされてきた。1位というのは、いつの時代も道を示す存在だった。


「時間を減らした会社No.1になろうという。どれだけ自分たちのプロダクトで、世の中の人の生活を改善したか、『改善総時間』を僕たちの生業にしよう。利益とか売上とか従業員数ではなく、提供したプロダクトで改善した総時間数。それだけ先に決まってたんですよ」


何をつくるかよりも先に、確固たる信念があった。信じるものがあったからこそ、いまがある。



時間を生み、世を動かす


サービスの価値を時間でとらえるという概念は、ライター時代に培われたという。


「もともと僕メディアでライターやってて。CNETとかで記事書くと、数万人にリツイートされて何十万人が読みに来るみたいな。自分が30分かけて書いた取材が、ぶわーって人の時間を消費していくんですよ。僕が書いた30分で何十万分っていう形で人類の時間を消費したなと凄く感じて」


一般的なメディアにおいては、どれだけ読まれるかが収益に直結するし、時間をかけて読んでもらえるほど、読み手はコンテンツに満足しているということになる。訪問者数と滞在時間がメディアの価値を決める。


「どれだけしっかり読んでもらえたか」、つまりたくさん時間を消費してもらえることが、良い執筆者の条件だと考えるようになった。


「世の中を動かすっていろいろあるけど、人の時間を消費したりとか、人の時間を生み出してあげるってことが世の中を動かすことだって、僕ライターとして書いてたからこそ、そう感じたんですよね」


人の生活のなかで無駄な時間を減らし、ためになる時間を生み出す。それこそが、BearTailが生み出す価値なのだ。



信念の形成


トップをねらう人生


幼少期にスポーツを通じて得た経験が、その後の人生でも残りつづけている。黒崎氏はサッカーの試合で勝ちたいという思いから、上達のためにコーチの言葉を信じ、実践することで力に変えてきた。


「割と素直かもしれない。コーチとかのマインドをそのまま引き継いでやりました。『練習はまじでしっかりやれ、練習から試合本番だと思え』『すべて無駄なアクションはない、一歩一歩意識を高めて地面を踏め』みたいな。『お前はキック力や走力が他の人に負けているから、良いポジションでボールもらえるように動け』という風に、自分よりも力をもつ人の指導をそのまま実行することが、実際に結果につながることを知っていきました」


経験者の言葉を信じ、目標に向かってストイックに全力を注ぎ、繰り返し目標達成していく。それにより周囲から賞賛されたり、表彰されることによって、より多くの人の期待に応えていく喜びを知った。


「人に求められていることをすると、感謝されるじゃないですか。それを最大化したいっていうのがあります。だから個人事業主で(メディアへ)記事を執筆したりとか、とても楽しかったし。いま組織でやっているのは、僕たちはKPIを時間で置いてますけど、個人でできないような、より意味のある、規模の違う挑戦と達成を得たいのかもしれない」


どうせやるなら全力を尽くしトップをねらった方が、多くの人に喜ばれるし、達成感も大きい。ためになる言葉は素直に信じ、すべて吸収する。トップをねらうマインドは昔からもちつづけてきた。



影響力の善悪


描くビジョンの背景は、少年期にまで遡る。


子どものころ、親の教育方針でゲームは厳しく制限されていたという黒崎氏。中学三年生のとき、初めて自分で買ったPSPは、未来の可能性が詰まっていた。


「単なるゲーム機ではなく、未来のデバイスだと思いました。こんなに自由度の高いデバイスなんだ!って気づいて広めたくなったんですよ。このデバイスをもつ人が広がるようにできるだけ魅力的になるような改造を施して、LRボタンが音楽にあわせて光るようにしたりとか、ソニーが提供するPSPなのに自作のゲームが起動できるようにしてあげたりとか。それでその数千名規模の改造コミュニティを運営して、当時年間で数百台を学内はじめとして、広げていきました」


当時の黒崎氏はただ無邪気に、純粋に、より多くの人にそのデバイスの良さを広めたいと考えていた。しかし、そこには人の人生に悪い影響を与える可能性も潜んでいた。


「(僕が)将棋部の部長だったころに、部内のメンバーにPSPの改造方法を教えたら、とても流行り。直接的な要因ではないかもしれませんが、それで将棋部は少し弱くなったように感じます。一部で幸せにしたものの、一部で不幸にしたなというか、自分自身にもブーメランで返ってきました」


PSPを広めることで、ゲーム廃人が一部出てしまった。何かを広めることは豊かな時間をつくりだすこともあれば、場合によってはそうでない時間となる可能性もある。優先順位が変わり、本来あるべきはずの「部活動」というものが脅かされた。だからこそ、何が正しいか明確にわかることだけやりたいと思うようになった。


生死をかける


高校三年生のとき、たまたま旅したインドで見た光景は、それまでの価値観を覆すに足るものだった。


「インドの(山奥で紅茶を栽培する)ティーガーデンで働いてる人たちは日給300円なんですよ。朝から晩までずっと働きつづけて。年齢関係なしに、子どもからおじいちゃんまで、全員1日300円。でもみんなその給料に感謝してて。日本で最低限保障されている生活レベルとの格差たるや。(日本は)チャレンジに向いてる国だと思いました」


トップを目指していたからこそ、日本で生きる上で、生半可な挑戦や、やりがいはほぼ意味がないのではないか。どうせなら死ぬかもしれない、そんなレベルまで振り切らないとおもしろくないのではないか。そう考えた黒崎氏にとって、大きく挑戦したい意欲が沸き立ってきた。


「生きるか死ぬかみたいな挑戦をやってみたい思いました。スマートフォン開くと、今でこそLINEがありますが、当時DropboxとTwitterとFacebookしかなかったんですよ。日本のアプリって1個もなかった。それなら、IT分野で挑戦するとしたら、日本の企業に入ってもダメだと。どこもダメなんだったら、自分たちで挑戦しようという発想で創業しました」


世の中に良いインパクトを与えるような、偉大な会社をつくろう。大学入学時から抱きつづけたその思いは、創業メンバーとの出会いのときまで、黒崎氏の胸に在りつづけた。




世を変える組織にあるもの


信じあう組織の成立


創業メンバー4人は、全員黒崎氏が大学で出会った。


「情報学部の研究発表を見て、短期的にすごい結果出してる人がいたので、その人に声をかけました。プロダクト一緒につくってみない?というような感じで。当時は法人化することは考えていなかったです」


プロダクトが世に受け入れられ、苦楽を乗り越えていくなかで、チームの結束は高まっていった。節約のためにシェアハウスで共同生活していたこともあり、創業メンバーは何を考えているか話をして共有しなくても前に進むことができる、家族のような信頼関係がある。


「一緒に朝から晩までご飯を交代交代つくりながら、プロダクトをひたすらつくっていました。いまでは、お互いが背中を預けることができるほど、信頼しています」


しかし、言葉がなくてもお互いを信じあえるチームを、雪だるま式で大きくしていくことには限界があった。


「『黒崎さん何考えてるかわかんない』といって続々と辞めた時期がありました。売上目標は未達の一方で、ただ計画通り人材採用はできてたので、費用が先行して赤字幅がかさむと。で、それをなんとかしないといけないから、『これが必要な目標です』と、目標設定したので。(みんなから)『具体的にどうすればいいかわからない』となってしまったんです」


それ以来、自ら最初の実績をつくり信用を築くようにした。また、メンバーとの十分なコミュニケーションをとるようにやり方を変えた。チームが組織になり大きくなっても、信じあう関係なくして前へ進むことはできないと考えるようになった。


偉大な会社にある「信じあう力」


スタートアップとして、当初描いていた理想と現実の間にギャップが生まれることもある。


「ここから3年で一気に爆発するポテンシャルが絶対あります。事業のスタートから考えるべきで、会社のスタートから考えるべきではないということです。スタートして、一夜にしていきなり爆発することは少ないので、忍耐強く継続し続けることが重要です。これを自分はもちろん信じています。そして、チームには信じてもらえたらいいなと思っています」


FacebookもInstagramも、あるときを境に急成長を遂げた。自分が信じ切れなければ、実現できるはずがい。仲間を鼓舞しながらも、本心でそれを思っていなければ伝わってしまう。まずは自分が信じ切ることが必要だ。


黒崎氏のなかで、無駄な時間を減らしたいという信念は、決してブレることがない。


「BtoB事業をはじめる以上は、このプロダクトは10年ぐらい最低やりきらないと意味がないです。2年やってポイってやるのであれば、そもそも取り組まないほうが良い。10年間は、これやるぞと覚悟してやっています」


大きな社会的ニーズがあるが、正しいかどうかどうかわからない事業。とびきり稼げるが、社会的意義があるかわからない事業。そんな事業は、BearTailでは行わない。社会的に意義がある、「無駄な時間を減らすこと」を事業にする。


「世の中を良くしていく」という確固たる信念があるからこそ、道なき道を切り拓いていくのだろう。




おわりに


何かを深く信じれば、誰でも自分の中に大きな力を見つけだし自分を乗り越えることができる。


本田技研工業の創業者、本田宗一郎が残した言葉である。「信じること」で得られる力、得られる結果が誰にでもあることを示してくれている。


世を変えるようなイノベーションは、どれもはじめから賞賛されているわけではない。正解も不正解もない。そればかりか、むしろ世の中からは不正解とされる場合も多い。アイデアを生み、事業を生み、それをつづけることで、あるタイミングで世の中からの支持を得て世の中の変革へとつながっている。


安易に目先の利益を目指すのではなく、その時の世の中に迎合するものではなく、未来を考え、そのタイミングが来るまで、未来への「信念」を曲げない力をもちつづけるからこそ、未来のプロダクト・サービスとなる。


イノベーションを支えてくれるそのものの正体は「信じつづけること」なのかもしれない。


心理学や進化学の観点からも人間そのものは、人間の原点として(幼少期であれば親などの)人との間に生まれる「信頼」の絆が成長に影響するとされてきた。「信頼」があるから人の脳と心が成長し、社会においても力を発揮できる状態がつくりだされる。


社会へ影響を及ぼす原点を「ひとりのヒト」という単位にまで分解すると、そのはじまりにも「信頼」が存在しているのだ。


ベアテイルは家族のような信頼の絆をもつ組織だ。お互いに言葉もいらないほど信じあうからこそ、一人一人が社会を変えていくような力をもつことができる。いま現在、世の中からの成功の約束を得ていないとしても、自分たちの描く未来を信じて邁進できる。


“人々の生活を改善し「時間」を生み出す”という物理の法則をも変えるような未来の社会を描くからこそ、ここにはその創造主としての「信じる力」が存在しているのであろう。




株式会社BearTail 黒崎賢一

代表取締役社長

私立武蔵中学校・高等学校卒業、筑波大学情報学群入学。2006年より6年間、朝日インタラクティブCNET Japanを筆頭にテクニカルライターとして執筆。主にウェブサービスやスマホアプリにおけるセキュリティ対策など技術専門性の高い領域を担当。2012年6月、株式会社BearTail創業。代表取締役就任。

https://beartail.jp/