目次

後編 | 最短上場と会社清算後の選択 — 信念を事業に変えるために必要なこと



予測もつかない社会的危機が訪れたとしても、盤石といえる経営の在り方がある。

営業活動をしながら、既存顧客への価値提供にも全力で取り組む。投資用不動産という業界内において、革新的ともいえるサービスを生み出しつづけている株式会社VISION。

代表取締役の石坂浩之は、20代の頃、創業メンバーとして参画したベンチャー企業にて、投資不動産会社として当時最短の上場を果たす。しかし、そのわずか約3年後、会社はリーマンショックのあおりを受け清算。時代の寵児とも呼ばれた企業の興亡を、その肌で経験してきた。

本連載では、常にお客様にとっての一番を選択するという強い信念を持つ石坂浩之の「信念が生まれた背景(前編)」、「信念を反映する経営(後編)」について伺った。



 シリーズ「プロソーシャルな距離」について 
世界が今、こういった状況だからこそ、「知恵」を繋げたい。
私たちFocus Onは、社会のために生きる方々の人生を辿って物語と変え、世の中に発信して参りました。そんな私たちだからこそ、今届けられるものを届けたいと考えております。社会に向けて生きる方の知恵の発信により、不透明さを乗り越えるための「知」の繋がりをつくりたい。それがどこかの、どなたかにとっての次へのヒントになれば。そう考え、本シリーズを企画し、取材のご協力をいただいております。








00 上場経験後の選択


創業から上場まで参画していた不動産会社が清算した時、1人の人間としての自分を変わらず信頼してくれたお客様たちに救われた(前編)。その経験から、石坂は経営者となった今でも「お客様第一」を何よりの信念とする。


「清算した会社の営業部門は社名を変えて残っていて、すぐには辞めなかったのですが、翌年の2010年に辞めてヴェリタス・インベストメントへ転職しました。このとき辞めた理由は、創業初期の大変だった時期から上場を果たすまで、組織の一員として一役を担って、清算したあとのお客様対応もさせてもらって、一通りこの会社で自分ができるべきことはやったなと、自分の中の一つのストーリーが完結した思いだったんです。私という人を育ててくれた当時の指導者・仲間達には今も感謝の気持ちでいっぱいです」


大きな挑戦に幕を下ろす決断をしたのち、信念の人は、いかに次に進んだのだろうか。





石坂浩之に学ぶ 信念を事業に変えるために必要なこと


01【転職?】何のための自分の人生か

02【転職後】子会社VISIONの社長へ

03【社内創業後】「お客様第一」の経営を実証する

04【組織づくり】信念を事業にするために必要なこと

05【苦難のなかの経営】信念を形にできる会社は強い




01【転職?】何のための自分の人生か


独立起業、共同創業の誘い、転職……。数ある人生の選択肢を前にして、あなたの意思決定の拠り所となるものは何だろうか。石坂の場合、揺るがぬ信念が起点となっていた。



■信念を叶えるための選択


「(前職を)3か月休職しているあいだ、自分で会社作ろうかなと考えたり、一緒に創業メンバーやらないかと誘っていただいたりもしました。ただ、このときは前職での経験(前編リンク)を経て、お客様第一であるべきということを理解していたので、そのための条件が揃っていないとダメだなと思っていました」


投資用不動産という業界で仕事を続けていく。そのためには、何よりお客様を大切にしなければならない。倒産という苦難にあってもお客様に助けられた前職時代、石坂が一番に学んだことである。それが叶うかどうかを軸としたとき、環境選びに妥協はできなかった。



■起業ではなく転職

「まず商品力が大事だったりするので、投資商品である物件の立地やデザイン性の面で、自分自身が納得できる物件を取り扱っている会社を選ぼうと思いました。それから会社の規模、銀行の提携もしっかりしていること、物件管理の状態も整っていること。そういった条件を総合的に判断して、ヴェリタス・インベストメントに転職することを決めました」


お客様が投資用不動産に求める条件はいくつかある。物件や規模、企業の実績。それら条件を満たす環境に身を置くことで、お客様に信頼されるサービスを提供できる。つまり、お客様を大切にする信念に繋がると石坂は考えていた。



■自分の為か、お客様の為か


「当時、自分にとって一番良い選択を考えるのであれば、自分で会社を作ることでした。自由度高く、やりたいようにできますから。正直ヴェリタスに転職した時は、給料も落ち、役職も落ちました。自分都合で言えば給料や立場は落ちたんですが、お客様第一で考えるならば、僕のことは二の次でいいと。お客様を大事にすることで、結果的に長く仕事ができると分かっていたので」


自分にとっての一番ではなく、あくまでお客様にとっての一番を選択する。信念を優先させる。清算の経験から石坂は、そんな生き方を貫く。



 POINT 
・ 信念を優先させてキャリアを選ぶ
・ 自分にとっての「やりやすさ」は2の次




02【転職後】子会社VISIONの社長へ


新たな環境で再スタートを切った石坂。そこから子会社VISIONの設立と代表取締役就任に至る。子会社の社長になることが約束されていたわけではない。それまで、どのような経緯があったのだろうか。




■転職後に意識したこと

「僕は興味ある分野の一つとして歴史の話が好きだったりするんですが、どの歴史を見ても、やっぱり外様大名ってうまくいかないんですね。自分に当てはめてもそうだと思って、まずは僕という人を認めてもらって、リーダーとしてなるべき人になるためには、とにかくみんなと同じ環境で、一営業マンとして成果を出すしかないと思っていました」


一戦力として認められなければ、組織をけん引する役割を担うことは難しい。いち早く仕組みや不文律をキャッチアップしながら、同じ環境でたしかな実績を出すことで認められる下地を作る。外様大名のままではうまくいかないのだ。


「そこでの僕の実績は0なので、個人でトップを取り、チームでトップ、部としてトップと、一つ一つ実績をつくっていきました」


過去、上場への道を切り拓いた組織の創業に参画した経験も、役員として携わった経験も、新しい環境では無いものとして考えた。あくまで新天地での信頼と実績を0から築いていったことで、結果的に石坂は挑戦への足掛かりをつかんだ。



■子会社社長への任命

入社してから約4年。営業部長という役職に就いていた。


「個人で結果を出すことから始まり、チーム、部と大きくなって、後輩も育ってきていたので、正直僕が抜けても、十分営業組織として機能する状態にはなっていました」


そして、その時は突然訪れた。


「ある日ヴェリタスの社長から、社内ベンチャーによる子会社設立の提案をいただいたんです。迷うことなく受けさせていただきました」


ちょうど会社の新年度を迎える時期でもあった。社内的にも組織編成を考えるタイミングである。同時に石坂自身、「よりお客様に喜んでいただけるサービスを自分流に提供できないか」と考えていた時でもあった。



■六畳一間ほどのスペースに机と電話機

「社名を考えるところから、名刺の準備、ホームページ作成。VISIONの立ち上げは、僕がいた営業部を引き継いで会社を作ったわけじゃなく、完全に0からやらせてもらいました」


与えられたミッションは、グループ会社としての自覚と責任を持ちつつも、自分で考え自分の力で会社を大きくしていくこと。六畳一間ほどのスペースに元々使っていた机、書棚が2つ、電話機という環境からスタートした。(20代でのベンチャー創業以来、)まさに二度目の創業だった。


事業領域は同じまま、会社の社風や方針は信頼のもと一任。これまでアイディアで終わっていたサービスを具現化することができる。


石坂の信念が、社会で形になる第一歩となった。



 POINT 
・ 新天地では誰もが外様である
・ 周りに認めてもらうには、その環境で0からの実績を作ることを意識する




03【社内創業後】「お客様第一」の経営を実証する


自ら旗を掲げられる社長という立場だからこそ、これまで以上の挑戦にこぎ出せる。しかし、そこには経営者としての苦悩もあった。石坂はなぜ、信念を貫くことができたのか。果たして、信念を会社の業績に転換できたのだろうか。




■石坂の挑戦―新規の営業活動を控えてみた

「新しい試みというか、普通は毎日一生懸命営業開拓をすると思うんですけど、会社として新規の開拓作業や広告をほとんどやらなかった。やらないというチャレンジをしてみたんです」


顧客様を大事にすることを意識し始めてから、所属会社が変わっても信念は変わらなかった。寧ろ、顧客様との関係性はより強固なものとなっていた石坂。


VISION社設立後は、「既存の顧客様を一層大切にすること」を第一とした。経営者としての挑戦だった。


「一軒一軒ご挨拶に伺い、より手厚いサポートをする。そうやって毎日時間を費やしていました。新規のお客様を後回しにし、既存の顧客様に力を注いで。現実的に目先で売上が必要な時にいちかばちかでしたけど。でも、そこから友人紹介するよとか、宣伝してあげるよとか、口コミで広がるような現象に繋がる活動だと信じて」


立ち上げ当初から新規開拓を控える方針を取り、結果は後からついてくると信じつづけた。それによりお客様の輪を広げていくことができれば、信念を自分が貫くだけではなく、組織として社会に体現できると考えていた。



■挑戦の苦悩―営業しないを続けられるのか

「お客様を大事にする。一口にそう言っても、なかなか簡単なことではない。日々の小さな積み重ねがご紹介などに繋がっていくことは、長い目で見る必要がある。


「経営的にこれでいいのかなという漠然とした不安はありました。でも、社員には不安な態度を見せちゃいけないので、自分が言い出したことですし。ニコニコしながら、漠然とした不安の中でやっていました」


確実に成果に繋がるかは分からない。すぐに社員が成果を出せるわけでもない。理念を掲げつつ、現実的な不安との狭間にいた。結果が出ない日々は、経営者としての意思決定への不安が募ったこともあった。


それでも石坂は過去の経験から、過酷な道のりにあっても「常に前向き」であれば叶えられると信じていた。だからこそ、社員には前向きな背中を見せつづけることが重要であった。



■挑戦のメンタリティ

「もし仮にそれで成果が出なかったとしても、また1からやればいいと。自分の中の経験上、何度でも再起できると信じていました。何よりヴェリタスのバックアップがあったからこそ挑戦できた環境であったことも大きかったです」


何度でもやり直せる、1から始めることはできるのだから恐れることはない。そう自分を鼓舞しつづけることが、挑戦を成功へと導く。



■挑戦の範囲―子会社だからできること

「VISIONが母体企業だったら、売り上げ・経費的にもっと手堅くセオリーに取り組むべきなんでしょうけど、子会社であるというポジションを活かし、いい意味で甘えて、試験的にいろいろとアイディアを出して取り組んできました。お客様第一主義という姿勢は関連会社も同じスタンスですが、顧客様向けにVISION流の取り組みを様々行っています」


たとえば同社では、石坂が講師を務める不動産勉強会を主催したり、リアルタイムの販売状況の共有、保険の見直しやライフイベントにまつわる各種サポートの提供、コミュニケーションイベントの定期開催などに取り組んでいる。


今までの経験を踏まえ「お客様第一主義」であれば結果は後から必ずついてくると確信があったからこそ、信じて進むことができた。


現在、VISIONは創業以来7期連続黒字決算、無借金経営を成し遂げている。



 POINT 
・ 信念を事業活動に連携させる
・ 誰より信じ、社員には常に前向きな姿を見せる
・ 後悔のない挑戦であれば、また挑戦できる




04【組織づくり】信念を事業にするために必要なこと


組織づくりという観点においてはどうだろうか。信念を事業に落とし込む際、大切なことはなんだろうか。




■営業の信念―売上第二主義

「VISIONでは、売上は二の次でいいよと言っています。嫌がるお客様に無理して売る必要はないと」


在るべき姿を描いても、それを支える組織の風土や事業の実態がなければ浸透しきらない。大前提、社員が信念を貫き、叶えるための体制を会社としてサポートすることが必要となる。


「新規開拓と言ってもいろいろ手法はありますが、たとえば電話営業とかだと一日500から600件架電したりと、精神的にも肉体的にも簡単ではありません。既存のお客様を大事にすることは特にストレスを抱えるものではない。やりやすい環境を作りながら成果に繋がっていくと、そういった意味での良さも社員からしたらあると思います。もちろん既存顧客がいない中途社員の場合、一定期間新規開拓をしなければいけない期間はありますが、延々と続くわけではないです」


既存のお客様を第一にするビジョンを掲げ、従業員の仕事にも反映する。それは一方で、社員の働きやすさにも寄与するものだった。働き方という観点でも社員のメリットとなるものであることが、同社の文化醸成を促進している。



■社員がビジョンに共感する

「何よりこういうVISIONの姿勢に共感してもらえているからこそ、社員もついてきてくれているのだと思います」


社員の仕事一つ一つが、事業全体・会社の信念と連携する。この仕事をしていけば、会社のビジョンを叶えられるという認知と共感。それら密接な連携が、社員の気持ちを会社に向かせてくれている。


信念を掲げるだけではなく、会社としてそれを全面的に支援する体制があるからこそ、社員も「ただ営業して稼ぐ」だけの欲ではない。社会に向けた価値を、仕事を通して残すことができるようになる。結果、VISIONでは真の「お客様第一」経営が実現されていくのだ。



 POINT 
・ 従業員個人の業務と会社のビジョンの連携を徹底する
・ それらの蓄積から、信念を実現していく風土を醸成していく




05【苦難のなかの経営】信念を形にできる会社は強い


苦難にあっても、信念を形にした経営は簡単には揺るがない。


「コロナの影響で仮に売上が0になっても、数年は持ちこたえられる体力が今は十分にあります。この会社は、VISIONに関わる何千人という人に支えられて成り立っているので、そういう意味では僕の中で大きな不安はありません。僕たちがやってきたことをこれからも貫き通せば、お客様は離れないでいてくれる、会社は十分に生き残ってくれるだろうと信じています」


きちんとお客様に向き合えば、お客様は離れない。それは投資用不動産の世界にとどまらない原理原則ではないかと石坂は語る。




■お客様第一と経営

「業種って製造業とかITとかいろいろ分かれていますけど、もっと大きい括りで言うとすべての仕事はサービス業だと思うんですよね」


経営的に不安な時にも、お客様を第一にすることを貫いてきた石坂は語る。


「個人にしても法人にしても、相手方がいないと成立しないわけですから。お客様を第一にするっていうのは、意外と簡単なようで疎かになってしまったり、利己的になってしまう部分は正直あると思うんです。だからこそ、会社の成長のスケジュールとかは置いておいたとしても、常に『お客様第一』を考える。実際にそれができている会社は、よっぽどのことがない限り、十分にやっていけるなと僕の中で思っています」


VISIONはそれを6年間の実績で証明した。お客様からの厚い信頼こそが、同社のかけがえのない資産であり、価値の源泉である。


お客様のライフデザインの「ヴィジョン」を明確にし、その実現をサポートする。明確な理想図のもと、VISIONは革新を生み出しつづける。



 POINT 
・ すべての仕事は相手がいないと成立しない
・ 信念を貫き獲得したお客様の信頼は、盤石な経営資源と化す




2020.09.01

文・Focus On編集部




石坂 浩之

株式会社VISION 代表取締役

1977年生まれ。東京都出身。東洋大学経済学部卒業後、大手不動産会社を経て創業メンバーとして起業に参画。2006年当時、投資不動産会社では最短となる設立4年目での上場を果たす。営業担当役員就任後、株式会社ヴェリタス・インベストメントに入社。2014年、100%子会社として株式会社VISIONを設立、代表取締役に就任。

https://vision.tokyo/




>>前回(2020年8月31日公開)

前編 | 最短上場からのリーマン清算で得た気づきと信念

創業間もないベンチャー企業で、仲間とともに走り抜けた20代。当時、不動産会社として最短上場という偉業を成し遂げるも、数年後に清算という危機を迎える。人生の波乱から得られたものとは。






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