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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
前編では、組織と個人のパフォーマンスを最大化させるための「意志」の重要性について触れた。中編では、それらを実践するための具体的な仕組みやツールについて「情報/コミュニケーション」の観点から紹介した。
>>前編 | ウルトラリモートワークに学ぶ―リモートで生産的な組織にある2つの「意志」
>>中編 | Superb Teamが実践する組織内情報の扱い方TIPS3選
最後に本稿では、TERASSの個々と組織のパフォーマンスを高める風土や空気感の醸成について掘り下げていく。
ウルトラリモート組織であるTERASSは、その最たるものとして称賛の文化を挙げる。江口氏がマッキンゼー・アンド・カンパニー社時代に学んだという「花火を上げる」文化とは。
組織と個人のパフォーマンスを最大化させるため、あらゆる組織運営が意志を持ってなされるTERASS。形としてある仕組みやツールだけでなく、空気感や文化としてつくりあげられるものはどのようなものか?
「弊社は称賛の文化です。心理学的にも叱って伸ばすより、褒めて伸ばした方が伸びることは証明されているので」
文化として称賛を大切にする。その意志は、前職マッキンゼー・アンド・カンパニー社に在籍したころの原体験にあるという。
「メンバーがいい仕事をしていたら、上の人がチーム全員に『誰々が、こんないい仕事していたよ!』と発信するんです。普通パートナーはアナリストの仕事とか見えないものですが、全体メールで一斉に送られると『いいね』とか反応があって。嬉しいじゃないですか。またいい仕事しようと思うし。マッキンゼー時代はそれを『花火を上げる』と呼んでいて」
TERASSの称賛文化(同社Slack画面より)
02【対象】経営陣~新入社員まで目にするよう発信する
良かった仕事は、上司が意図して褒める。海外にいようが新入社員だろうが、全体の目がある場所で称賛する文化がある。打ち上げられた花火は、経営者の目にも届く。
新入社員もパートナー(経営層)が見ていると分かれば、一層頑張ろうという意欲に繋がっていくという。さらに、「自分の仕事がこんなふうに価値のあるものだった」など、自らの仕事や役割の重要性を認識する。
それら仕事の価値の認識は、自らの意志をもって取り組むことに繋がり、自律的な工夫が生まれていく。称賛の文化は、仕事に取り組む意志と仕事の価値を繋ぐのだ。
「自分が頑張って意図して何かを作って、いいアウトプットが生まれたときは認めてほしいじゃないですか。そうじゃなかったら言ってほしいし、フィードバックがほしい。だから、みんな褒められたくて当然で、褒められたくない人って、たぶん自分の仕事に自信がもてるほどやってないんじゃないかな」
仕事に自分なりの意志を持ち完遂したのであれば、そのアウトプットは評価されたい。悪ければ「何が悪いか」を知り、それを改善に繋げたい。意図ある仕事とはそういうものなのだ。
自らの仕事に「褒められる」ことを求めることは、誰から見ても称賛に値する自信のある仕事をした裏返しなのかもしれない。
称賛は、仕事の意志や意欲を高め、個人にとっての仕事の意味へと還元していくのだ。
称賛による組織への好影響はそれだけではない。
特にリモート組織では、誰かが評価されるべき成果を上げたにもかかわらず、オフィスに集まっていないからこそ全体には見えづらく、十分に知られないまま終わってしまうこともあるかもしれない。
模範となるような仕事ぶりは、全体の目に触れるよう積極的に称賛される必要があり、称賛により組織としての「仕事の質の暗黙知」がつくられると江口は語る。
「このくらいの質はベースラインとして保たないといけないんだなと、みんな思うんですよね。特に、数字で成果を測りづらい職種ではそれが大切で、企画職やコンサルは最たる例ですね」
いい仕事が称賛されることにより、その組織やチームに求められる仕事の質として、最低限担保しなければならないレベルが自ずと明らかになってくる。それが全体に共有されることで、良い意味で緊張感が生み出されるという。
称賛文化が個々の仕事の価値の認識をつくり、質を高め、さらに組織内相互の「いい仕事」のレベルの暗黙知を創り出す。個と組織が向上していく好循環が生まれるのだ。
個と組織全体のパフォーマンスを高める称賛文化。まずは、一つ誰かの花火を上げてみてはどうだろうか。
POINT ・ いい仕事は大小にかかわらず称賛し合う・ それらを経営陣~新入社員まで目にするよう発信する ・ 「仕事」の価値の認識が創られる ・ 社員間に「いい仕事」の好循環が生まれる |
従来の組織では、まずオフィスという物理的な場所が無意識にあった。個人と個人、チームは対面を前提とし、会議やマネジメント、生産性などあらゆる仕事上の問題は、それら物理的接点の延長線上になんとなくあるものとしていたかもしれない。接点自体へ疑いをもつことは少なかったのかもしれない。
ウルトラリモート組織、TERASSの組織づくりからそんな前提に気づかされる。
リモートありきの組織では、物理的な接点が前提にない。出社、会議、コミュニケーション。必要であれば、それら接点は何らかの目的をもって設計されるものであり、当然それら自体が目的とはなることはない。
「そこにある意図は何なのか」。暗黙の共通言語の下、全てが自律的に運営され、高い生産性が組織にもたらされていく。江口の「つねに既存を疑い再設計する精神」が導いた組織のありようと言える。
本編では、「リモート」を切り口に「生産性の高い組織」を探っていった。しかし、それはオフィスで顔を合わせるか否かといった物理単体の効率の話ではない。組織における接点をどうするか?という切り口をきっかけにした、組織意思の有形無形すべての「システム」を考える話といえる。経営者の意志、従業員の意志、情報の設計、文化……あらゆる側面から組織の再考を図ってみてはどうだろうか。
2020.06.05
文・Focus On編集部
江口 亮介
株式会社TERASS 代表取締役CEO
東京都出身。慶応義塾大学経済学部卒業。2012年に株式会社リクルートに新卒入社(現リクルート住まいカンパニー)し、SUUMOの広告企画営業として、約100社以上の不動産ディベロッパーを担当。その後、売買領域のMP(Media producer)として、SUUMOの商品戦略策定・営業推進・新商品開発などに関わる。2017年にマッキンゼーアンドカンパニーに入社し、戦略・マーケティングを中心とした経営コンサルティングを手がけた後、2019年4月に株式会社TERASSを創業。個人で3回の不動産購入、2回のフルリノベーション、2回の不動産売却を経験。
>>次回予告(2020年6月12日公開)
COVID-19が社会のあらゆる営みに影響を及ぼす時代、大きく変わりつつあるのは組織の在り方や働き方だけではない。リモート環境下では個人のアウトプットと生産性に注目が集まり、組織に所属するか否かにかかわらず、「個」の仕事の価値が問われるようになっている。そんな時代を生き抜く個人戦略について考える。
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