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坂根千里
株式会社水中  
代表取締役社長
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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
00 美歴のビジョン
美容室の電子カルテというお客様との繋がりを起点に、美容師や美容サロンの新しい価値創造に貢献していく。同社は、「ITで、美容サービスに今までにない顧客体験を」という理念を掲げている。
当初、パイプドHDグループ内の新規事業として立ち上がった美歴。法人化にあたり、鈴木が代表取締役に就任した経緯は、どのようなものだったのだろうか。
「タイミングは5年前、パイプドビッツの純粋持株会社としてパイプドHDが設立するタイミングでした。パイプドビッツは新規事業を含め、組織が業界ごとの編成となっていて、それぞれの組織が業界のプロとして向き合う業界の知識を深め、繋がりも強くなっていました。そのような中で、より業界に合わせた機動性の高い事業運営をしていくために法人化していくことは自然な流れだったと思います」
未活用の情報資産が眠る業界に対し、次々と事業を立ち上げていたパイプドビッツ社。2015年にホールディングス体制へ移行し、それぞれの事業部は子会社として独自の道を歩んでいくこととなった。
なかでも当時、鈴木が事業立ち上げに参画していた事業は3つある。ネット投票システムの研究や、政治・選挙プラットフォーム「政治山」(現VOTE FOR)。下北沢の地域活性化に繋がる企画を仕掛けるI LOVE 下北沢(現アイラブ)。そして、美歴だった。
「美容、政治、下北。それぞれの立ち上げに関わりながら、軸足は美歴に移っていきました。立ち上げから事業を形作っていく中で政治は、今の代表を務めている市ノ澤さんが議員秘書の経験があり、圧倒的に事業への思い入れ、事業運営に長けていると思いました。下北も、代表である西山さんと取締役の阿部くんがべったり下北沢でやっていて事業を伸ばしていくんだろうと感じました。美容は、自分が一番思い入れがあり、大変そうだったんですけど、なんですかね、大変そうだからこそ面白そうって思って取り組んでいたから任せてもらえたんじゃないですかね(笑)」
社内の一事業部として始動してから約3年。美歴が繋ぎ、美容室のカルテとして蓄積されたお客様のデータは20万件にも及んでいた。ここからのスケールも面白いのではないかと思えた。鈴木は当時をそう振り返る。
02【ビジョンの裏側】評価されるべき人が評価される社会へ
元々経営者になりたいと考えたことはなかったと語る鈴木。社内起業という形で社長という役割を担うことになり、ビジョンを掲げた当時は何を思っていたのだろうか。
「全ての事業立ち上げに思い入れはあるんですけど、美歴には特に深い思い入れがありました。というのも、当時偶然仲良くしていた友人が美容師で、彼女が顧客カルテを一生懸命紙に書いている姿をリアルに見ていたんです。お客様にすごく愛される美容師だったんですが、薄給で拘束時間は長い。なんでだろうと、もっと評価されるべきなんじゃないかと思っていたんです」
身近な人が直面する課題を、リアルに感じ取っていた鈴木。質の高いサービスを提供しているにもかかわらず、いまだ評価されていない美容師のために、ITや情報資産という観点から価値を創り出せるはず。その思いが、美歴の事業をけん引していくエネルギーとなっていた。
「美歴のサービスを作っているのも、『美容業界で新しいことがやりたい』が動機なのではなくて。今活用できていないものがたくさんある。だったらもっとできるよね。と考えていくと、それが偶然新しいことだったんです」
評価されるべきところがあるのに、評価されていない人。もっと力を発揮する可能性を秘める人。そんな人たちのために事業をつくり価値を届けていきたい。それは鈴木の体験が導いたものだった。
昔から仕事で頼まれたことは、どんなに経験が無くても引き受けた。学生時代、ドトールでアルバイトをしていた時も、仕事が好きそうだからと店長を任され引き受けたりもした。全てにおいて「イエス」と決め、実行してきたと語る鈴木(『前編 | イントレプレナーの成長法則』より)。それほどまでに走りつづけられたのは、なぜだろうか。
「パワーの根源があって。僕の場合、フォーカスが当たらない人、上手くいっていない人、この人はもっと感謝されていいのにもったいない、という人のためにできることをしたい。それが、僕のおおもとのライフワーク的なモチベーションにあるんですよね」
本来の力を発揮できていない誰かがいると、どうしようもなく歯がゆさを感じてしまうと話す鈴木。何か自分にできることはないだろうかと自然と探してしまう。思いの原点は、幼少期にまでさかのぼる。
「僕はむかし小児喘息の持病があって。それが原因で、小2くらいのころはアトピーがひどくて、いじめられたりもしたんです。外見的なことを言われたりすると、さすがにへこむじゃないですか。周りに良い影響を与えていない僕がいて。そういう状態の僕を見て、親とか仲間とか支えてくれる人がいたんですよね。その人たちがいなかったら、学校に行くのをやめていたかもしれない。支えてもらって、自分の可能性みたいなものを教えてもらった。『お前はもっと人に良い影響を与えられるんじゃないの』と言ってもらえて、頑張ることができた経験があるんです」
ネガティブになっていた自分を支えてくれた両親や友人たち。支えられ、なんとか立ち上がろうと頑張る自分の姿を見て、彼らは喜んでくれた。その経験が、自分のエンジンとなり駆り立てられてきたという。
「人それぞれ自分がなんでそれをやりたいのか見つめてもらって、そのために前に進むきっかけがあるとしたら、それは何にでも『イエス』ということなんでしょうね。そうすればこのエンジンが枯れない限りは、走り続けられます」
素晴らしい才能や可能性を秘めているはずの人たちが、もっと輝き評価される社会を創るため、鈴木は事業を通して力を尽くす。
人それぞれの原点と、そこから生まれるエネルギー。その流れが明確に認識できているほど、事業を走らせるエンジンは強くなる。掲げるビジョンは、そうして現実に近づいていく。
初めは「経営者っぽく」なろうとしてきたと語る鈴木。誰しも初めから「経営者である」ことはない。思いと事業の結びつきが、人を経営者たらしめ、企業に成長をもたらしてくれるのだろう。
2020.08.07
文・Focus On編集部
鈴木 一輝
株式会社美歴 代表取締役社長
1979年生まれ。埼玉県出身。東京農工大学卒業後、株式会社アルバイトタイムスなどで営業、Web企画、マーケティングに従事したのち株式会社パイプドビッツへ入社。執行役員マーケティング室長として、グループ内で複数の新規事業立ち上げに参画。2011年にスタートした美容電子カルテアプリ「美歴」にて、2016年3月、パイプドHD株式会社100%子会社として法人化。株式会社美歴の代表取締役社長に就任した。
>>次回予告(2020年8月14日公開)
「お客様との繋がり」という変わらないコンセプトを掲げつづける美歴。COVID-19感染拡大という社会変化を経て、今、美容業界はどう変化していこうとしているのだろうか。次世代の美容室の在り方について伺った。
連載一覧 前編 | イントレプレナーの成長法則 中編 | 社内起業家に送る ビジョンと思いの結び付け方 01 【経緯】3社の選択:どこの社長になるか? 02 【ビジョンの裏側】評価されるべき人が評価される社会へ 03 【事業のモチベーション】鈴木は何故走りつづけるのか? 後編 | 美容室はどう変わっていくか? |
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