目次

前編 | イントレプレナーの成長法則



「社内起業」という選択肢がある。あらゆる挑戦が0→1となる独立起業とは違い、社内の経営資源を活用しながら新規事業を立ち上げることができる。

美容室・美容サロンにITで新しい顧客体験を創造していく株式会社美歴 代表取締役である鈴木一輝も、そんな社内起業家の一人だ。下北沢を愛する人のためのコンテンツを創造する株式会社アイラブ。次なる社会へ向けた投票の在り方を創る株式会社VOTE FOR。東証一部上場のパイプドHDグループにて、複数事業の立ち上げに参画してきた経歴を持つ。

本連載では、イントレプレナー(社内起業家)として事業立ち上げを成功に導いてきた同氏が語る「社内起業家の成長法則(前編)」、「思いとビジョンの結び付け方(中編)」、「美容業界の未来(後編)」についてお届けする。



 シリーズ「プロソーシャルな距離」について 
世界が今、こういった状況だからこそ、「知恵」を繋げたい。
私たちFocus Onは、社会のために生きる方々の人生を辿って物語と変え、世の中に発信して参りました。そんな私たちだからこそ、今届けられるものを届けたいと考えております。社会に向けて生きる方の知恵の発信により、不透明さを乗り越えるための「知」の繋がりをつくりたい。それがどこかの、どなたかにとっての次へのヒントになれば。そう考え、本シリーズを企画し、取材のご協力をいただいております。












鈴木一輝に学ぶ 「YES!」で掴む社内起業のススメ


01 【Step1:メンバーから事業責任者になる1歩目】全部イエスと言う

02 【Step2:任されてからやること】それっぽくやる

03 【Step0:仕事の精神性】仕事のための仕事はしない

04 社内起業のメリット

05 事業責任者と経営者の違い




01【Step1:メンバーから事業責任者になる1歩目】全部イエスと言う


どうすれば社内で事業を立ち上げる機会を掴めるのだろうか。


東証一部上場のパイプドHDグループにて、これまで複数事業の立ち上げに携わってきたイントレプレナー(社内起業家)である鈴木に聞いた。


「絶対イエスと言うことです」


迷いなく答えながら続ける。


「頼まれたことはまずやってみる。何事も最初はうまくいかないものですが、僕はそれっぽくやるのが得意なんです(笑)。それって社会人に求められるスキルの一つだと思うんですが。だから何でも頼まれるし、死ぬほど働いていたし、絶対イエスは今でも決めていることですね」


ノーからは可能性が広がらない。自分が何かの機会を得たいのなら、全てにおいてイエスがいい。それが鈴木のイントレプレナーとしての生き方であるという。


「メンバーから提案があった時も、僕は全部イエスです。『まずやってみろよ』と。何かを成し遂げたいんだったら、基本的にイエスだと思います」


機会を掴みたいのなら、答えは一つでいい。シンプルに「イエス」。そこから事業責任者への一歩が始まっていく。





02【Step2:任されてからやること】それっぽくやる


「何かを頼まれたら全てイエス」。そこから機会を得ることができたなら、期待に応えることで次に繋げていきたい。そこで大切になるのが「それっぽくやる」ことであるという鈴木。


「それっぽくやる」とは、どういうことなのだろうか。



1.まずそれっぽくやってみる

「いきなりプロフェッショナルにはなれないけど、やってるときにはプロでなくちゃならない。外から見られたら担当の名札がついちゃうので、自ずとそれっぽくやることになる」


最初から上手くできる人はいない。しかし、任されたのであればその領域のプロでなくてはならない。それでも、最初は当然「プロ」ではない。だからまずは「それっぽく」やってみることだ。


そうすれば目標を成し遂げるために、自分がどんなプロでなければならないのかを理解できる。それには知識として勉強するよりも、まずは「プロ」っぽく試してみることが一番早いと鈴木は考える。



2.「それっぽくやる」が気持ち悪くなる

「でも、所詮それっぽくやってる自分って、あんまり好きになれないですよね。気持ち悪くなってくるんです」


その場しのぎばかりでは、いつまでも本物の自信にはならない。いつまでも「プロ」でないと言い訳をしてしまう自分では成果も伴わない。


「プロ」である自分と「それっぽい」自分の乖離に居心地の悪さを感じられれば、その思いは「プロ」になるためのエネルギーに変わるのだ。



3.足りないところを認識する

「気持ち悪くなる、ということは自分の能力を高めようと必死になる。そうして自分に足りないところを認識することが重要で。みんなそれっぽくなんですよね」


それっぽい自分への気持ち悪さを感じたら、次は理想と現実の距離、自分に何が足りないのかをよく知り埋めにいくことだ。その分野でプロフェッショナルとされる人、その要件を整理する。あとは、計画を立てて努力する。そうすれば、「それっぽくやる」は実力と実績に転換する。




■具体的にどう努力するか

「具体的には、(事業を任されれば)アウトプットでしか評価されないので、マイルストーンを作ります。半期とかQごとに、50%いけるかどうかくらいの目標がいいと思う。Googleが事業推進に使用しているフレームワーク『OKR』がまさにそのものでしたので、参考にさせてもらいました。今も自分の事業運営や、新しい考え方をインプットしようと思ったら使っています」



― ①目標を立てる ―

まず、「こうなりたい」という定性的な目標を立てる。

※「半期で誰が見ても引き締まって見える体になりたい」といった、ふわっとした感じでもイメージができて、共通の認識になっていれば良い。


― ②目標達成に必要な鍵を設ける ―

次にその目標を達成するために、必要な条件を2~3個設ける。

※体重、体脂肪率、割れた腹筋など、それぞれなんとか達成できる可能性が50%ほどであるものがちょうどいい。

※目標は多すぎてもよくない。忘れてしまったり、企業の場合、その先にある会社のあるべき姿に結び付かなかったりする。


― ➂期待に応える ―

最後に、達成に必要な行動を起こす。あとは期待に応えるだけだ。


「そうやって人の期待に応えていくと、『それっぽく』じゃなくなる日が来る。何かを成したときです」


適切なマイルストーンを置き、理想へ向けて確実に歩むこと。そうして「それっぽくやる」自分と理想のギャップを少しずつ埋めていく。その繰り返しが、成功へのたしかな道筋となる。



 POINT 
・ まずは「プロっぽく」やる
・ 「それっぽくやる」が気持ち悪くなる
・ 不足を認識し、埋めるために努力する

[具体的な努力の仕方]
 ① 目標を立てる
 ② 目標達成に必要な鍵を設ける
 ➂ 期待に応える




03【Step0:仕事の精神性】仕事のための仕事はしない



「僕の性格上、試せる状況にないものを学べないんです」


学ぶための学習はできない。アルバイト時代のカフェ店長、営業、Web企画、マーケティング。これまでの仕事人生全てを、イエスで返してきた。だから、試せる場が生まれ、機会を引き寄せ学んできた鈴木は続けて語る。


「僕は絵空事を言わないし、リアルな話しかしません。たとえば、よく恋愛に例えるんですが、モテる人って営業できると思うんです。全てとは言えないですが、どう喜んでもらうか、どう気づくかで印象って全然変わるじゃないですか。髪型一つ変わったことに気づけない人が、営業でお客さんの顔色に気づけるわけがないと僕は思うんですよね。要は、全部繋がる話で。常にリアルとリンクしていくと、自分のやる気に繋がるし、やる意味にも繋がってくる。だから『仕事のために』何かをするが嫌いなんです。それが『自分にとっての何なのか』を常に考えないといけない」


一つ一つの期待に応え、実績と信用を積み上げていく。しかし、目の前の仕事をクリアすることが、目的になってはいないだろうか。それは仕事のための仕事であるという。


仕事をリアルとリンクして考えているか。仕事の場だけで「髪型の変化」に気づく人間になろうとしていないだろうか。自分の生活や人生に仕事がリンクするからこそ、それは自分の人生の意味に繋がりやる気に変わり、仕事の場での力に変わっていくのだ。



 POINT 
・ 仕事と自分の生活や人生がリンクしているか




04 社内起業のメリット


起業はプレッシャーとの闘いだ。しかし、社内起業の文化がある企業では、その点に関してメリットがあると鈴木は語る。



■社内起業文化のある会社のメリット

「経営資源って、ヒトモノカネ情報とあるなかで、モノはアイディアだったりいろんな資産で何とかなると思うんですけど、ヒトとカネだけは絶対に必要だけどすぐには手に入らない。その辺りを全く経験のない方でも(社内で)学んでいけるのはすごくいいなと。それが許される風土があるのなら、社内で試すのが僕は良いと思います」


起業したばかりのころ、最初から採用やキャッシュフローの考え方に精通している人はいない。社内起業文化のある会社は経営者視点での成長を促し、独立後の成功確率を高めてくれる。





05 事業責任者と経営者の違い


それでは、同じ社内で事業をつくる「事業責任者」と「社内起業家」の違いはどこにあるのだろうか。事業責任者が会社設立後に躓くポイントを、鈴木の経験から聞いた。


「特に、お金の考え方と人材の採用ですね」


独立起業し、経営の舵を取る。その時、最初からお金の考え方や人材の採用が分かっているかいないかでは、意識が全く違ってくるという。


「僕の場合、ぶっ飛ぶような瞬間が訪れたんですよ。それが、キャッシュフローを見る瞬間なんです。一か月が終わったときに、ばんと減っている。『あれ?』と思うわけです。これでメンバーに飯食わしていかないといけない立場にあるんだなと思う、事業責任者と経営者の違いってそこだと思います。もちろんそれまでも収支は見ていたけど、自分の問題になっていなかったんです。そこを認識した瞬間、僕は経営者になったんだと思います」


PL/BSは読めたが、会社の資金繰りは分からなかった。今お金がいくらあるのか、誰にいくら払う、誰を雇う。事業責任者の時は、会社が考えてくれていた。イントレプレナーとなればいずれも自分自身で責任を持たねばならない。その事実に気づいた瞬間に、事業責任者と経営者の違いを突き付けられたと語る鈴木。


そこから鈴木は自社と他社の決算資料から学ぶこと。本から学ぶこと。そうしてやってみることで、経営者として足りないものを学習していった。



まずイエス。そして、それっぽくやることで自分を成長させて、人の期待に応える。そのサイクルを回していくうちに、意思決定の精度や仕事の価値は向上していく。


社内起業だけにとどまらない。何かを成し遂げる一歩目の「イエス」。志ある全ての人にとって大切な真理がそこにある。



 POINT 
・ 事業責任者と経営者の違いは、お金の考え方と人材の採用に対する責任にある




2020.07.31

文・Focus On編集部




鈴木 一輝

株式会社美歴 代表取締役社長

1979年生まれ。埼玉県出身。東京農工大学卒業後、株式会社アルバイトタイムスなどで営業、Web企画、マーケティングに従事したのち株式会社パイプドビッツへ入社。執行役員マーケティング室長として、グループ内で複数の新規事業立ち上げに参画。2011年にスタートした美容電子カルテアプリ「美歴」にて、2016年3月、パイプドHD株式会社100%子会社として法人化。株式会社美歴の代表取締役社長に就任した。

https://bireki.jp/




>>次回予告(2020年8月7日公開)

中編 | 社内起業家に送る ビジョンと思いの結び付け方

社内起業家として、事業組成のあとに代表となった鈴木。経営を担う立場となったそのとき、会社として掲げるビジョンと、自身の思いはいかにして結び付けられていたのだろうか。






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