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鈴木一輝
株式会社美歴  
代表取締役社長
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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
前編では、栄養管理は面倒くさいという固定概念に、頑張らず無理なく健康に近づく考え方について紹介した。
一方で、今、生活者にとって、選びたくなるスーパーとは何だろうか。ECが発達した社会では、家にいながらにして生活に必要な買い物を済ませることが可能となった。立地の良い場所に出店し、来客を待つスーパーの形は変化の時期に来ている。
スーパーは食生活だけでなく、健康を支える存在になれると語るシルタスCEO小原氏。同氏の描くビジョンから、変革していく次世代スーパーの在り方が見えてきた。
02【シルタスの実証実験】デジタルでスーパーはどう変わるか?
03【苦渋の選択と未来】もっと楽に健康になれる社会をつくるためのステップ
COVID-19の感染拡大はあらゆる産業に多大な影響を及ぼした。しかし、生活必需品の需要はなくなることはない。
特に、外出自粛が叫ばれるようになって以降、スーパーでは食材などをまとめ買いする人の姿も多く見られるようになった。各社では、前年を越える売り上げを記録しているという。それは、小売り流通業界の変革を前に進める契機となるのかもしれない。
来店には感染リスクも伴うとして、ECの売り上げも好調だ。消費者のあいだでは、外出することなく買い物できるECの価値も同時に再確認されていることだろう。いまやインターネットでは商品の最安値などの情報も、すぐに調べられるようになっている。生活必需品を買うにしても豊富な選択肢が用意されている今、スーパーにとっては、店舗に足を運ぶことの意味を再定義すべき時が来た。
デジタルとの共存が当たり前になった時代、生活者に選ばれる存在であるために、スーパーには何ができるのだろうか。
「今までの小売り流通って、最大公約数を狙ったお店を作ってきたと思います。要は、マスに対して一番受けるものを作ることが正解で良かった」
マスに最適化するリアルな店舗とは反対に、デジタルな店舗であるECでは、個々の嗜好や行動に合わせたサービスの最適化が進んできた。
「オンラインはどんどんパーソナライズできるので、オフラインからするとそこは脅威になる。だったら、単純にオンラインを追従してパーソンライズしていけばいいかというとそれも違って。オンラインは買い物の手間が無くていい。オフラインはモノを見たり触ったりしながら買える。『パーソナライズ×触れる見える』という両方の価値を繋げていくことが、今後のテーマになってくると思います」
リアル固有の「触れる見える」とデジタルの価値の融合。それが、新しい意味を創造していくヒントとなる。
消費者との新しい向き合い方を見出していくスーパー。現在の社会情勢がもたらした生活様式の変化は、次世代スーパーに向けた転換点といえるのかもしれない。
POINT ・ 「パーソナライズ×触れる見える」の価値の融合が、次世代スーパーの姿かもしれない |
02【シルタスの実証実験】デジタルでスーパーはどう変わるか?
小売り流通におけるデジタル融合が進むと、スーパーはどのように変化するのだろうか。
2019年、シルタスが第一号事業に採択された、神戸市による最先端のテクノロジーを用いたソリューション及び実証実験「Urban Innovation KOBE 『+P』」など、全国各所での実証実験にて得られた成果より、次世代のスーパーの在り方が見えてきた。
シルタス株式会社は神戸市と協働で、スマホアプリ「SIRU+(シルタス)」を使用した実証実験を、平成31年3月29日より市内13店舗のスーパーマーケット「ダイエー」の協力を得て行います。(中略)実証実験開始日の3月29日(金)10:00~ダイエー神戸三宮店にて、病院や食品メーカー等と協力し、抽選会や健康チェックができる、オープニングイベントを開催いたします。
<オープニングイベント実施概要>
実施日:平成31年3月29日(金)10:00~18:30
場 所:ダイエー神戸三宮店 1Fコンコース(受付場所:1F正面入り口前)
参加企業:シルタス株式会社、株式会社ダイエー、三聖病院、キユーピー株式会社、ハウス食品株式会社 等
実施内容:・スマホアプリ「SIRU+(シルタス)」の実演
・アプリをダウンロードして、抽選でプレゼントがもらえるキャンペーン
・骨密度や血糖値・筋力測定等の健康チェック
・測定結果を基にした、健康相談会・栄養相談会
・シニアのための栄養講習会・展示即売会 等
―神戸市「スタートアップ提案型実証実験事業『Urban Innovation KOBE+P』の第1号事業に関するリリース」より
「SIRU+(シルタス)」を導入することにより、消費者とスーパーが連動する。消費者は日々簡単に栄養状態の管理が行える一方で、スーパーはユーザーごとの好みや選択基準、栄養状態といった情報のデータベースが活用可能になる
「僕らのサービスを導入してもらうと、いろいろできることがあって。まず、このスーパーを使えば栄養管理ができるから選ぼうということで、来店率が上がったというデータが出ています」
同じ商品を買えるスーパーがいくつかあるのなら、栄養管理ができる方を選びたい。消費者の心理は、直接的に来店率の向上へと繋がっていた。
「栄養バランスを考慮した食材やレシピのレコメンドは、『もっと買おう』という心理にも繋がっていきます。たとえば、アミノ酸が足りてない人がいたら、それを補う食材やレシピを提案する。消費者ごとにターゲティングして、栄養バランスに合わせてメーカーさんの商品紹介もしています」
ユーザーごとに不足している栄養素や好みを分析し、それに合わせた商品をレコメンドする。提案される商品情報は、毎朝スーパーのデータセンターから送られてくる仕入れ情報を反映したものとなり、消費者側はお店に行けば商品を必ず手に入れることができる。
また、一回の買い物における滞在時間短縮にも繋がるため、より効率的な買い物体験が実現されることにより、来店客の満足度を高めるものとなるだろう。
「仮に、ある商品を見た人が『SIRU+』上で300人いたというデータが出た場合、スーパーさんは仕入れの意思決定にも活かしてもらうことができますよね。仕入れを調整して売れ残りが減らせれば、食材のロス・廃棄を減らすことにも繋がる。そういった意味で、流通のお役に立つこともできると思います」
消費者の購買を最適化することは、小売り流通全体を最適化することにも繋がる。
さらに、買う側の栄養リテラシーを高めながら、仕入れる側の栄養リテラシーも高めていくことができると小原は語る。
「当たり前のように消費者の栄養リテラシーを高めると言っても、スーパーのバイヤーさんの栄養リテラシーが低ければ、『何を仕入れればいいの?』となってしまうので。両方に対してリテラシーを上げながら、僕らがサービスを提供できれば最高ですね」
まさにそこには、リアルな店舗だからこその価値が生まれてくる。スーパーを訪れるたび、栄養バランスを考慮した食べたい食材を買うことができるという安心を担保する。スーパーが主体となり、消費者の健康に寄与することができる。次世代のスーパーは、消費者の暮らしにこれまで以上に寄り添う存在となっていく*。(*2020年夏、シルタスではより多くのスーパーにサービスの価値を届けるべく、流通向けのキャンペーンを行う予定)
POINT[デジタルでスーパーはどう変わるか?] ・ 来店率が増える ・ 客単価が増える ・ 仕入れの最適化がなされる |
2020年4月、生活者の高まる健康ニーズを受け、「SIRU+」は食材の手入力機能をリリースした。
健康への不安が高まるなか、より多くの人が自身の栄養状態を把握し、バランスの良い食生活が送れるようになってほしいという思いが込められているという。食生活・スーパーの転換期の今、シルタスはどのような未来を想像しているのだろうか?
「正直(手入力機能のリリースは)ずっと悩んでいました。僕たちのサービスのコアバリューは『面倒くさい栄養管理を自動化できること』なので、今まで自分たちが大事にしてきた価値を否定してしまうことにもなるんですよね。それでもこんな状況で、特に健康を支えるサービスをやっているからこそ、社会のためになるサービスをやりたい。少しでも多くの人に、弊社が提携しているスーパーのカードでしか使えませんじゃなく、使いたいと思った全ての人が使える環境を整えることが重要だと思いました」
手動入力で健康管理をするサービスは多くある。栄養管理の自動化を重視していたシルタスにとって自己否定ともいえる機能のリリースは苦渋の決断だった。しかし、今この時に一企業として社会に対して何ができるのかという自問が最終的な決め手となった。
「今後『SIRU+』をより多くの人に使ってもらうことにも繋がれば」
日常的に栄養を考えることが難しくないのだと知ってもらうことには意味がある。栄養管理意識への文化醸成こそが、同社のサービスの描く未来。だからこそなされた決断なのだ(本来の価値をより広く届けていけるよう、今後は自動化がより進むよう提携先スーパーを拡充していく方針であるという)。
「サービスを長期的なビジョンで考えています。消費者は買い物、スーパーは小売り流通、メーカーは物を作る。それぞれが最適化されることがフェーズ1です。当たり前のようにサービスを使ってもらうためにいかに広めるかを考えつつ、そもそもその人が今どんな生活をして、どんな栄養状態であるかというデータ自体がヘルスケア全体で考えると結構貴重なデータになってくるんです」
睡眠や運動量など、ヘルスケアにまつわるデータはさまざまなものがある。それら状況を自動で計測するウェアラブルデバイスやIoT機器などテクノロジーが普及した現在でも、食事のデータだけは、ユーザーが写真を撮らない限り可視化されないままになっていた。
「SIRU+」により自動で蓄積されていく栄養状態というライフログデータは、たとえば将来その人が病気になったとき、病の根本的な原因を把握するのに役に立つ。反対に、外部で計測された健康情報と「SIRU+」を連携させることにより、買い物時、不足する栄養素に応じたレコメンドをすることも可能となる未来を描いている。
ライフログデータの活用場面は、医療だけにとどまらない。フィットネス関連のデータと連携すれば、摂取カロリーに合わせた運動量の提案ができる。さらに、スーパーでの購買パターンと傾向を分析することにより、疾病の確率を割り出せば、適切な医療保険を提案できるようにできるなど保険分野への応用も期待されている。
医療、フィットネス、保険などと連携することで、単なる栄養管理にとどまらない価値を提供し、情報銀行などデータ利活用の普及を推進する。外部とのデータ連携により、双方向的にサービスの価値を高めていく。それが、同社がフェーズ2として目指す姿であるという。
「ほかにも色々な話は出ていて。たとえば、独居のお年寄りが元気にしているかって家族は分からないじゃないですか。でも、家族なり外部機関なりは、そのおじいちゃんのカードを『SIRU+』に登録して見られるようになると、ちゃんと買い物してるとか、今週アンパンしか食べてないとか、離れて暮らしていてもちゃんと分かるようになる。どう応用するか次第なんですよね」
身の回りのあらゆるサービスと連携し、必要な選択肢を提示してくれる。栄養状態にまつわるパーソナルデータは、これまでなかった生活様式を広げていく。
食べたいものを食べ、誰もが無理なく健康へと導かれる。シルタスが創るのは、「健康」だけではない。健康を切り口にした、あらゆる日常全てを導くライフパートナーの礎だ。
STEP[シルタスの描く未来] 01 栄養管理は文化づくりから02 食事のデータを健康につなげていく 03 生活全てを支えるライフログデータとなる |
2020.06.23
文・Focus On編集部
小原 一樹
シルタス株式会社 代表取締役
食べることも飲むことも大好き。学生時代の世界一周の旅をきっかけに「食の適材適所」に関心を持つ。特殊冷凍技術を保有する企業に入社し、生産から販売まで様々な食品流通の現場をサポート。食の「楽しみ」と「健康」を両立させるべく、シルタス(旧アドウェル)を設立。
>>次回予告(2020年6月30日公開)
当たり前を揺るがす社会変化は突然訪れる。ここ数か月、世界中の誰もが実感したことかもしれない。こんな時代だからこそ、迫る変革と苦難を乗り越える「思考法」をお届けする。
連載一覧 前編 | めんどくさがりの為の健康管理術 後編 | 小売り流通業界のデジタルとリアルの融合がもたらす変化 01【買い物の再定義】買い物はパーソナライズドされていく 02【シルタスの実証実験】デジタルでスーパーはどう変わるか? 03【苦渋の選択と未来】もっと楽に健康になれる社会をつくるためのステップ 変容時代、突破のためのシンプルなマインドセット |