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幾嶋研三郎
株式会社Globee  
代表取締役社長
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or気遣いができる人というのは、人と何が違っているのだろう。
相手が喜ぶこと。思わず感謝してしまうこと。ふと見逃してしまうようなこと。それらは実は、高度なスキルが求められるものばかりじゃないはずだ。小さな気遣いも、積み重ねればいつか大きな山にだってなる。
それでもやっぱり小さくて、意識していないと実践できない。だからこそ他の人との差異を生み出す源泉にもなるのかもしれない。
ここでは、ハナマルキで取締役マーケティング部長兼広報宣伝室長を務める平田のメモ帳から、仕事で出会う相手と心地よい関係を築くためのささやかなコツを見てみよう。
平田 日々仕事を通じて出会うたくさんの人、人、人。その中に、「おっ、この人はすごいな」と思わせてくれる人がいる。
小さくともこちらが嬉しいことをしてくれる。その人なりのちょっとした気遣いのようなものが光る人。そんな印象深い出来事があると、ついつい顔と名前を覚えてしまうもの。
自分の場合、長いこと広告宣伝の仕事をしてきたから、営業に来てくださる人たちとお話することが多かった。そこでの人間づきあいのなか、「おっ」と思ったことは何でもメモしておいて、のちのち自分もどこかで使えないかと考えたりしています(僕の場合、いつも持ち歩くiPadやスマートフォンのEvernoteを開いて、すぐにその場でメモに残します)。
それはたいてい、誰しもできるけど、ほとんどの人はやらないことだったりもする。
見返してみれば、人には「そんなことですか?」と言われるようなことばかり。実はどれも簡単なことだけど意外に皆さんやらないことなんです。
「平田さん、よろしくお願いします」、「平田さんって、背が高いですよね」、「平田さん、今日は●●ですよね……」。たとえば、こちらの名前を呼んでくれる人。ふいに名前で呼ばれると、ちょっとドキッとしてしまう。わざわざ名前を呼ばなくても会話はできるから、意外と皆さん名前は呼んでくれません。
あたかも親しい友人かのように名前を呼びかけられると、商談の場面にもかかわらず、急に相手の存在を近くに感じたりする。そんな体験をしたことがある人は少なくないだろう。 NTTメディアインテリジェンス研究所が行った研究*1によると、相手に合わせた対話をするための対話戦略として、名前を呼ぶなど「フレンドリーな表現」を使うという戦略は、ある程度多く見られるという。 相手の名前を呼ぶ。ただそれだけで堅苦しくない空気になる。気楽に話してもらいやすくなる。話の内容云々よりも簡単で、難しく考えることは何もない。誰でも今すぐできそうだ。 |
届いた通知を見て、思わず一瞬考える。
「お誕生日おめでとうございます」。意外な名前とともに、祝いの言葉が添えられている。なんでこの人から連絡が来るんだろう?
そもそもいつの間に僕の誕生日を聞き出したのか。思い返してみると、このあいだ会ったとき自分から誕生日を話したかもしれない。自然な会話の中だったから、きっと相手はうまく引き出す術を持っているに違いない。
一人の誕生日のために、わざわざ連絡をくれる。ベタだけど、そんな小さな心遣いが嬉しいものですね。
大人になると、必ずしも誕生日が待ち遠しいものでもなくなってくる。誕生日への期待度が、20代30代と歳を重ねるにつれ下がっていくことは、東京経済大学の研究調査*2によっても明らかにされている。 家族でもない、仕事上の繋がりから祝ってもらえると、なんだか急に自分の誕生日が新鮮なものに感じる。だから余計に記憶に残るのかもしれない。わざわざメッセージを送ってくれる。その事実に感謝したくなり、私たちは相手に自然な好意を抱いている。 |
何気ない雑談。仕事とは関係のない話題を楽しんで、なんとなく満足して終わる。
でも、その人はそこで終わらなかった。駅伝が強いことで有名な私の母校。ある年たまたま母校が優勝したときに、電報をくれた人がいる。「母校の優勝おめでとうございます」。後にも先にもそんなことをしてくれたのは、ただ一人だけだった。相手のことは忘れようがありません。
僕にはできないな、すごいなぁと思わされること。こういう気遣いができる人なんだ。そんな印象が残るからか、何かあったときも信頼していいかなと思えてくる。
あまりに自然で何気ないものであったりするものだから、いつか自分もと思っているうちに忘れてしまったりもする。だから、記録を残しておかなきゃもったいない!感じたこと、いいなと思ったこと。きちんと書いて残しておこう。自分がされて嬉しかったことは、記録に残す。そこから意識して、人にも実践するようにしています。
忙しいビジネスマンほど、日々たくさんの人に会っている。形式的な名刺交換。半ば自動的なSNSの友達申請。この人、どんなご縁で知り合ったんだっけ?気づけば、いつどこで会ったかあやふやな人の名前が手元に大量にストックされていたりする。
情報と出会いにあふれる現代社会において、記憶に残るのは、人に埋もれない何かが光る人なのだろう。
それは、何も大それたものである必要はないのかもしれない。誰でもできるようなことほど、人は重きを置かなくなっていく。だから小さな気遣いが輝いて、なぜか心に引っ掛かりを残すことがある。
仕事ができる。とか、目に見えやすい違いでないからこそ、小さく無意識で気になっている。無意識で気になっているからこそ、意識的に認識されるよりも大きな心の引っかかりとなり、他の人との差異を生んでいる。
自分のちょっとした気遣いからはじまる相手のちょっとした喜び。そこから始まるお付き合いが、いつしか大きな信頼関係に繋がっていくのだろう。
*参考
1 平野徹,東中竜一郎,牧野俊朗,松尾義博(2016)「発話者による対話の振返りを対象とした傾向分析~人はどのように相手に合わせた対話をしているのか~」,『人工知能学会全国大会論文集』第30回全国大会(2016),pp.1-4,人工知能学会,< https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2016.0_4C11 >(参照2019-9-4).
2 川浦康至(2011)「わたしたちにとって誕生日とは何か」,『コミュニケーション科学』(33),pp.193-221,東京経済大学コミュニケーション学会,< http://www.tku.ac.jp/kiyou/contents/communication/33/Kawaura_Yasuyuki.pdf >(参照2019-9-4).
平田 伸行
ハナマルキ株式会社 取締役 マーケティング部長 兼 広報宣伝室長
広島県出身。広島大学経済学部卒業。1990年、株式会社リクルートに新卒で入社。人材採用広報の制作ディレクターを経験後、新組織の立ち上げや自社の宣伝を担う。2010年より、急成長中のアパレル企業に移り、宣伝広報部門の立ち上げを担った後、執行役員社長室長に就任。急成長期にあった同社の組織体制強化を任され、人事・システム・CS窓口など全方位的に体制の見直し・強化をおこなう。その後、2013年6月よりハナマルキ株式会社に参画。
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