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後編 | 業界の健全な文化継承のために必要なこと ― リノベーション専門学校設立に寄せて


根底にあるものは人と人。それが組織を、社会を動かす原動力になるのかもしれない。

健康と環境、持続可能性に配慮した自然派デザインリフォーム・リノベーションに特化する住生活総合企業として業界に先駆けてきた株式会社OKUTA。同社が首都圏に17店舗展開する「LOHAS studio」ブランドは、国土交通省後援「住まいのリフォームコンクール」で15年連続の優秀賞受賞、その他デザインコンテストでも総計360件を超える受賞実績を誇るなど、社会からたしかな評価を受けてきた。

2018年10月設立の一般社団法人リノベーション専門学校は、そんな同社の実績に裏打ちされたノウハウと教育論を広く社会に還元するべく立ち上げられた教育・コンサルティング機関である。代表理事を務める飛田恭助は、OKUTAに23年勤め、その間5回のMVP受賞や過去最高額の売上記録を塗り替えるなどトップセールスとして活躍。7年間の支店責任者やエリア統括を経て、執行役員に就任した。

本連載では、経営とともに同社の採用・人材開発領域を長年担ってきた飛田恭助に「ナンバー2の思考法(前編)」「専門学校設立へ寄せる思い(後編)」について伺った。



 シリーズ「プロソーシャルな距離」について 
世界が今、こういった状況だからこそ、「知恵」を繋げたい。
私たちFocus Onは、社会のために生きる方々の人生を辿って物語と変え、世の中に発信して参りました。そんな私たちだからこそ、今届けられるものを届けたいと考えております。社会に向けて生きる方の知恵の発信により、不透明さを乗り越えるための「知」の繋がりをつくりたい。それがどこかの、どなたかにとっての次へのヒントになれば。そう考え、本シリーズを企画し、取材のご協力をいただいております。








飛田恭助に学ぶ 業界の健全な文化継承のために必要なこと


01 【設立の思い】文化を継承する担い手を育てたい

02 【社会問題】悪徳業者の台頭と業界の信頼失墜

03 【これから学ぶ人へ】あらゆる人は営業力を身につけるべき

04 【文化】20年以上業界を見て思うこと




01 【設立の思い】文化を継承する担い手を育てたい


自社の利益を超え、業界の未来のために学校を設立した人がいる。


リフォーム・リノベーション業界の黎明期から市場を切り拓き、一時代を築いた企業で働くこと23年。長年培われた経験とノウハウを惜しみなく注ぎ設立されたのが、「一般社団法人リノベーション専門学校」である。


代表理事である飛田は、業界が健全に発展する未来を見据えている。


「小手先の技術だけ学んでほしいわけじゃない。そういう思いがあります」


状況に応じて1人で複数作業を担うことができる多機能工や、住宅のこまごまとした修理、修繕に特化した住宅メンテナンス技術の習得。はたまた営業からリフォームアドバイザー、新人・マネジメント研修と、同校がカバーするカリキュラムは幅広い。さらに、人材育成や組織構造に課題を抱える中小リフォーム企業に向けコンサルティングまで行っている。


今後ニーズの高まるスキルから普遍的スキルまでを実践的かつ体系的に学べる環境を提供するだけでなく、同校には業界の未来の担い手を育てる気概がある。なぜ今、それが求められているのだろうか?



■30年50年先も永続する企業であるか


「最近の業界はますます追い風になっていまして。空き家率問題があったり、国がいろんな補助金を出してきてますから、異業種参入も活発で市場が激化しています。激化するとやがては淘汰される。でも、お客様視点で考えれば、数年後なくなっちゃうような企業に仕事を頼みたくはないですよね」


激しい市場競争にさらされる環境では、全ての企業が生き残れるわけではない。リフォーム・新築工事のあと、定期メンテナンス含め30年50年という保証契約が結ばれるケースは多いが、果たして本当にそれだけ長く企業が営業継続できるのか、保証してくれるものはない。


「見かけ倒しじゃなくて、きちんと再現可能で、永続的に繁栄しつづけられるような企業の文化継承、そういったものがあって初めてできる契約だと思っていて。そういう業界になってほしいなと思っています」


住宅は人生でも大きな割合を占める買い物だ。数年、数十年をともにすることが一般的であるうえに、1度買って終わりではなく定期的なメンテナンスが不可欠となる。そんな商品を扱う企業としては、始まりから終わりまで安定的に任せられる、永続する企業が求められている。



■技術だけでなく技術を使う心が問われる


「リフォームって変な話、真面目にやればやるほど、ちょっと儲かりにくいみたいところはあるんですよね」


手をかけ丁寧にコツコツ創りあげた仕事ほど、お客様には喜んでもらえる。しかし、その分人件費は圧迫され、生産量にも限界が生じてくる。IT業界のように1つのシステム開発で、莫大に儲かるような仕事ではない。泥臭いものづくりの世界だ。そこにリフォーム業界の難しさがある。


解決策となり得るものとして、プレカット(現場ではなく事前に工場などで原材料を切断・加工を施しておくこと)と呼ばれる近代的な工法もある。現場では建物を積み木のように組み立てるだけの状態となるため、大幅に作業時間を短縮することが可能だが、旧来からの手作業と比較して一長一短であるといわれている。


「(そういった技術とも)共存する必要はあると思うんですけどね。でも、やっぱり職人さんの技術も含めての文化継承は必要だと思います」


リノベーション専門学校では、そうした業界ならではの難しさも教えている。安さや早さ、儲かりやすさを追求し過ぎれば、短期的には儲かるかもしれないがモラルが低下する恐れもある。


今後業界を健全に発展させるには、誠実に事業を行いながら雇用や仕事を創出していく人や企業の存在が不可欠だ。そもそも業界が活性化しなければ、職人のなり手も増えてこない。


スキルを学ぶことは簡単でも、それを使うマインドセットがきちんと伴っていなければならないと飛田は考える。お客様からの信頼を得られるよう、同校では技術と心、両面の教育を行っている。



 POINT 
・ 30年50年先も永続する企業の文化を伝え継ぐ
・ 技術を伝え継ぎ、それを扱う心を養う




02 【社会問題】悪徳業者の台頭と業界の信頼失墜


今でこそ需要の高まるリフォーム業界だが、ほんの15年前には業界の中小企業に危機が訪れたこともあった。


悪質なリフォーム業者による、無責任で常識を度外視した詐欺的工事、手抜き工事などが横行した時期である。世論は業界中小企業全体への批判に傾き、案件受注のハードルは格段に高くなっていた。


2006年には、OKUTAでも創業以来初の赤字となる。企業体力の少ない、数多くの中小リフォーム業者が会社を畳まざるを得なかった。その中には、誠実に仕事をしていた企業も多く含まれたはずである。


いまだ社会問題を抱える業界だからこそ、働く人には求められる視点があると飛田は語る。




■結果は後になる

「リフォーム・リノベーションはトラブル産業とも言われていて。それは結果が後からついてくるからでもあるんですよね」


出来上がりがイメージしたものと違った、見積もり以上の費用がかかった、施工不良があった――。リフォーム・リノベーションにまつわるトラブル相談件数は、2010年頃から年々増加しているという(*公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターより)


たとえば、自動車のように完成品を買うだけならばトラブルは起きにくいだろう。ディーラーで試乗することもできるし、買った後のイメージも比較的しやすい。


家の場合、なかなかそうはいかない。


「受注するときって、『この担当者ならちゃんとやってくれるであろう』という期待値でしかないんですよね。欠陥住宅なんかは例外として除外しますけど、完成して住んで初めて五感で感じる部分もありますし、そこで評価される」


結果は後になる。だからこそ、売ってお終いということはない。


そればかりか住まいという暮らしに直結する商品を扱う以上、失敗が生じた際には「お風呂が使えない」などお客様の日常生活に支障をきたす場合もある。クレームにおいては辛辣な言葉を投げかけられることもあるという。工事中のトラブルをはじめ、結果は後になるからこそ、一度きりでは終わらない中長期的な信頼関係構築が大きな意味を持つこととなる。



■お客様との信頼関係が問われる

「結局お客様のお家って、その担当者がどんな提案をするかで形が変わるわけですよね。担当者次第で住み方も住み心地も全部変わってしまう。でも、住んでから試して決めることができないから、お客様もこの業者なら想いを叶えてくれるであろうということで、信じてもらうしかない」


飛田自身、営業として駆け出しの頃は思うようにいかず悩んだ時期もあったという。しかし、あるときから急に成果が出せるようになったという経験がある。


「急に知識が増えたりしないと思うんですね。それから急に営業スキルが上がるかっていうと、上がらないと思うんですよ。あとで振り返ったときに思ったのは、たぶんそれまでは覚悟が足らなかったんじゃないかなと。それが本気の本気で悔しいっていう挫折を初めて味わって、言葉にできない部分が変わったのかもしれない」


眼光や雰囲気、一生懸命さ。変化があったとしたらそれくらいしか思いつかなかったと振り返る。建築知識やスキルは学ぶべきものだが、同時に言葉にされないようなマインドセットもお客様には見られている。



■良いものを作ればお客様はつく

「一方で、ちゃんとしたものを作って、ちゃんと広めていれば、一定数のお客様はいらっしゃるものです。OKUTAのブランドである『LOHAS studio』なんてまさにそうで」


自然素材に特化したこだわりのデザインやリノベーション工事にかかる費用は、決して安い金額にはならない。それでも生活をより豊かにしたい、住宅への関心が高いお客様はそれを払ってでも任せたいと、選んでいただける方がいる。


高付加価値型の大型リノベーションは不況には決して強くない。急に何件も受注が増えるということもない。しかし、誠実に作られた商品に対し、価値を感じてもらえるお客様は一定数いる。


お客様に喜ばれるものをいかに提供していくか。商品だけではなく、そこにかかわる一人ひとりが商品のようなものとして誠意をもって丁寧にお客様と向き合い、信頼を積み重ねていくことが重要になる。



 POINT 
・ お客様との信頼関係を何より大切にする




03 【これから学ぶ人へ】あらゆる人は営業力を身につけるべき


リノベーション専門学校では、住宅建築の専門技術のみならず営業力というものを本格的に学ぶことができる(営業職としては埼玉県初の認定職業訓練校に指定されている)。同校に特徴的なカリキュラムには、どのような思いが込められているのだろうか?



■営業職以外の人にも営業を学んでほしい



「どんなに良い図面を書けたり良いプランを作れても、それをプレゼンテーションする機会がないと、人に伝わらないんですよ。だから、裏方さんであっても可能な限りコミュニケーションスキルを学んでほしいし、せっかく良いものを作ってるんだったら、それを世に広める方法を身に付けてほしいと思っています」


仮に、優れた小説を書くにもかかわらず、日の目を見ない作家がいたとする。もちろん運やタイミングといった要素もあるだろうが、その人にはプロモーション、すなわち社会に対するコミュニケーションを取ろうとする働きかけが足りていない可能性がある。


だから、営業というコミュニケーションを学ぶことは、どんな仕事においても大きな意味があると飛田は語る。


「『営業職』って言うと、なんかテレビドラマに出てくる営業マンみたいなイメージを持たれがちなんですけど、実は職の文字を抜いて『営業』ってことで言うと、誰もが小さい時から無意識にやっているんですよ。たとえば、『お母さん、ちょっとお手伝いするからお駄賃ちょうだい』と交渉する。これも立派な営業ですよね」


誰かと仲良くなりたいと距離を縮めること、友達を作るのも恋人を作るのも、要するに営業というコミュニケーションにほかならない。その能力が高い人であれば、その仕事での営業経験や専門知識が無くても成果への足掛かりがある状態となる。


プロジェクトで多くの人をまとめたり、自分にはないスキルを持っている人とチームを組んだり。その成否はコミュニケーションにかかっているとも言える。


営業は全ての仕事に精通する。より大きな仕事を成し、自身の人生を謳歌するためには、必須のスキルとなるということだ。



■営業こそ技術職

「数字が達成できない人には理由があって。営業っていうのは、どうすると信頼関係を築きやすいかとか、どう言葉を置き換えるとお客様にとってプラスにとられるかとか、すべて理論づけて科学することができる。言ってみれば心理学でもあって、営業こそ技術職だと僕は思うんです」


お客様は営業越しに会社を投影している。なぜ信頼していただけないかということを分解しけば、必ず要因が見つかってくる。営業こそ技術職といえるのだという。


挨拶がきちんとできていなかった、そもそも身だしなみがなっていなかった、あるいは会社説明が上手くできていなかったのかもしれない。どうしても予算的に折り合いがつかないケースもあるが、自分たちでコントロールできる範囲はやはりある(それらをクリアして初めて、その人は真面目にやってくれそうかなど心理戦に入る。初めてあなたの話を聞いてくれる状態になるという順序がある)


「分解していくと必ずあるんですよ。そこをトレーニングして整えると、スランプの人もぐっとV字回復していったりする。いかに分解して、気づけるかですよね。それって人見知りか、人見知りじゃないかではないんです。僕も人見知りですから(笑)」


営業には理論がある。ロジックがある。根性論などの世界から脱却し、それらをきちんと捉えれば、誰しもトレーニングが可能であるという。だからこそ、技術職としての営業をあらゆる人に学んでほしいと飛田は考える。



 POINT 
・ 営業スキルはあらゆる職種の人にとって役に立つ
・ 営業こそ技術職である




04 【文化】20年以上業界を見て思うこと


1997年にこの業界に入って以来、飛田は常に最前線に立ってきた。


今でこそ当たり前であるが、新聞の折り込みチラシにメニュー表を記載する反響営業スタイルを考案したのもOKUTAである。業界に先駆け、同業他社から追従されるような取り組みを次々と打ち出していく会社だからこそ、そこから見える景色の移り変わりがよく見えていた。



■古き良きものを大切にする文化


「僕が入社した頃は、まだ家のリフォームっていう概念がないぐらいでした。お洋服のリフォームですか?っていうくらい。それが今は、リフォーム・リノベーションという言葉を知らない人はほとんどいなくなってきている」


家にまつわる歴史を戦前までさかのぼってみる。かつては新しいモノを消費してばかりではなく、古き良きものを大切にして住み継ぐ文化が、そこに「住まう」という文化があったはずだと飛田は振り返る。


裏山の木を切って作られた木造住宅に100年住まう、そんな光景も日常だった。それが敗戦国となったのち、高度経済成長とともに人口が増加していくにつれ、スクラップアンドビルドの繰り返しや、ケミカルな家づくりが発展していった。


「よろしくない家づくりをしていた時代があって。それを今、原点回帰じゃないですけど、古き良きものを大切にして、新しく命を吹き込む文化が見直されている。リノベーションという形で当たり前になりつつある」


木造建築技術についてもそうだ。過去から受け継がれる木の技術は進歩を続け、昨今では商業施設に木造建築が採用される事例も出てきた。世界一ともいわれる日本の木造建築技術には、絶やさず発展させつづける価値ある文化がある。


リフォーム・リノベーション業界で働くということは、文化を守り、次世代に繋ぐ仕事をすることでもあるのだという。リノベーション専門学校は、そんな業界の歴史に新たな風を吹き込む存在となる。



■業界最高峰の教育の仕組みを作る


「もともと専門学校が作られた背景としては、OKUTAで技術職を内製化していたところから始まっていて。内製化することで粗利率が高まっていくので、利益率が良くなる、生産性が上がっていくということで育てていたんです」


きっかけは3年半ほど前、飛田が人事教育部を預かるようになったことだった。会長の奥田からは「業界最高峰の教育の仕組みを作ってくれ」と言われていた。


業界でたしかな実績を出したノウハウを、教育として理論的体系的に落とし込む。取り組んでいくにつれ、この教育こそ業界に必要とされているものではないか、より広く社会に展開していくべきものなのではないかという思いが飛田の中に生まれてきた。


「業界最高峰がどこなのかまだ分からないし、日進月歩だと思っていますけど、僕が23年間現役でばりばりやってきたこと、その全てをつぎ込む覚悟でやっています。これは10年がかりくらいでやるものだろうなと思っています」


実現できるかは分からない。しかし、限界までチャレンジして初めて、本当にできないことは見えてくる。だから挑戦しつづける。


個のキャリア開発を支援し、業界できちんと活躍できる人材として育て上げる。企業に対しては、それぞれの課題に向けて教育研修を実施することもあれば、クレーム減、粗利率改善、高収益化など、あらゆるサポートを視野に入れている。だまされたと思って、一度相談してみてほしいと飛田は語る。


学校という場所は、学問を授ける場所である。リノベーション専門学校では先に学問ありきではない。あくまで実践のノウハウとして見出されたものを体系化し、学問として落とし込んでいる。


社会をつくる担い手としての技術と心。それらを体得し、文化を守る人として巣立つ。そのための学び舎として、門戸は開かれている。



2021.10.13

文・Focus On編集部




飛田 恭助

一般社団法人リノベーション専門学校 代表理事

東京都出身。リフォーム業界を黎明期から牽引してきたリーディングカンパニー、株式会社OKUTAにて23年勤務。常にTOPの成績を残し、3年連続含む5度のMVPを受賞するなど、同社における営業の最高位の称号を保持。7年間の支店責任者やエリアリーダーなど複数店舗のマネジメントを兼務し、その後執行役員に就任。経営面にも携わりながら、採用から教育・育成のスペシャリストとして手腕を振るい、2018年リノベーション専門学校を立ち上げ代表理事に就任。Off-JTのみならず実践的なOJTにも定評がある。

https://renovation.school/
https://www.okuta.com/




>>前回(2021年10月6日公開)

前編 | 組織の支柱となるナンバー2の思考法

ナンバー2の在り方次第で、組織が、トップの行く末が変わる。力を発揮するナンバー2に共通項はあるのだろうか。






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