Focus On
小原一樹
シルタス株式会社  
代表取締役
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or1997年以来減少に転じ、戦後過去最低を更新しつづけている日本の生産年齢人口。未来、その鍵を握るといわれるのが、人ではない人のような手段、人工知能である。 シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
01【投資家時代の軸】3つの投資テーマから見る「伸びる会社」の条件
投資家として、起業家として。社会と対峙し、複数の事業づくりに携わってきた荻野。事業領域を検討する際には、何を考えているのだろうか。投資家時代の視点から伺った。
「当時3つの投資テーマを設定していて。一つは、当時まだ日本が強いとされていた家電、デジタル技術を使った事業領域。それから、社会の変化に適応できる、適応したサービスを提供している領域。最後に、日本の産業競争力が弱いところを強化する領域。たとえば、(投資には結び付きませんでしたけど)農業関連の技術とかですね」
〈3つの投資テーマと1つの視点〉 #1 【強さ】強みのある事業領域#2 【変化】社会変化に適応できる、適応した領域 #3 【社会課題】産業競争力が弱いところを強化する領域 +1 【産業】共感性の高い領域 |
「販売力とかマーケティングの力も感じますけど、それは差し置いて製品自体の競争力ですよね。性能機能・価格のバランスというか、お客様がどこを重視するかにもよりますが」
日本にとって、会社にとって。様々な視点があれど、サービス・製品に強みがあれば、それはマーケティングに勝る影響を事業にもたらしてくれる。強みのあるサービスであれば、受け取った顧客の満足度は相対的にも向上し、マーケティング・販売力にも好循環を生んでいくのだ。
「2011年の東日本大震災のあとも社会構造は変わったと思いますが、コロナの後も変わると思いますね。当時はライフラインが重要になるということで、個人的には食料関係、農業、エネルギー系に着目していました。今回のコロナ感染症の影響で言えば、(弊社の事業にも関わる領域ですが)働き方とか、ライフスタイル全般を変革する必要に迫られていて。そこに対してサービスを提供できる会社は伸びるだろうなと思います」
私たちの日常を揺さぶるほどの出来事が起きたとき、社会で求められる産業も大きく変わる。当然そこには事業としての機会も生まれてくる。
変化の大小にかかわらず、変化に適応できるか・適応した領域であるかは、企業の未来を左右するのだ。
「社会の課題をとらえて何を解決するかを考えたらいいんじゃないかなと思います。投資会社にいた時も、社会の課題を解決するという発想は軸として一つあったので」
強さを見つめ、変化を見つめ、社会課題を構造から解決する。そんな事業こそが、中長期で社会から求められ続け、成長していくと、投資家時代の視点を振り返って語る荻野。
しかし、なぜ、社会の課題を解決するという視点に至るのか。聞くと、明快な答えが返ってきた。
「なんでですかね。当たり前のことだと思っているので」
起業して何を成すか。その目的を突き詰めていくと、社会の課題を解決することがそこにある。それはごく自然なことなのだ。
「伸びるマーケット、セグメントにいることも大切です。どんなに優秀な経営陣がいても、衰退する産業にいたら、伸びるものは限定されます」
どんなに優れた人材も戦略も、コントロールできない産業構造の変化を前にすれば成す術がないのかもしれない。事業を立ち上げる際には、その見極めが重要になるという。
では、どうすれば産業の変化を見極められるのだろうか。
「ある程度みんな分かっていることだとは思うんです。古い例えですけど、メディア産業と言えば、戦後一時期は映画が一番で、そのあとはテレビになり、テレビも今は厳しくなってきている。どのマーケットが伸びる伸びないは、ある程度共感できるものなんじゃないかなと。あとは選ぶか選ばないか。選んだうえで何をするか、どうやるか、誰とやるかという問題になってくる」
「周囲から共感性のある状態」。それこそが、伸びゆく産業の写し鏡となっている。事業領域の選択においては、周囲の共感性を探ってみることがリトマス紙となるかもしれない。
02【組織】「伸びる会社」の組織法則
組織やチームの問題はどうだろう。投資家目線から、成功する企業組織の条件を伺った。
「スタートアップでよく言われることですが、最初に入ってくる社員よりも、あとから入った社員の方が優秀なことが多いですよね。古くから最初にいた社員が、あとから入った社員との競争に負けて出て行くことも多い。これって日本のスタートアップだけじゃなくて、歴史的に見ても、例えば戦国時代を見てもそうだと思うんです」
かつての織田信長の臣下たちを見てみると、あとから登用された木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)や明智光秀が優秀とされ、古くから織田家に仕えた家臣は去っていき、ほとんど残らなかった。その穴は大きく、結果的にあとから入った優秀な家臣も抜けていき、組織は弱体化していった。
だから、初期から豊臣秀吉級の人を採用することで永続的に成長する組織となる。
「僕らの投資先でそういう企業はたくさん見てきました。意外と初期からいる社員でハッピーになっている社員は少ないなと思います。エーアイスクエアでは初期メンバーもほとんど残っているんですが、それは創業期から妥協しないで採用したことが大きいと思います」
企業は成長する過程でより優秀な人が集まってくる。「実績もない創業初期は、まだそこまで優秀な人を集められないから仕方ない」と思ってしまうことはないだろうか。しかし、創業時にこそ妥協せず仲間を集めることが大切だ。それこそが組織の未来を決める。
「今まで僕らの会社で辞めたエンジニアは、二人だけです。一人は大学で職があったので、研究職に行きたいと。もう一人はキャリアチェンジしたいと言って、農業に行きました。友達とスタートアップを起業したいと言って辞めたけど、その後戻ってきたメンバーもいます」
上手くいけばその道を進めばいい。組織として個人のやりたいことを尊重し、一方で、もし上手くいかなかった場合は、戻ってくる社員を受け入れる。「戻ってくること」を含め、人生の選択の自由を容認することで、個人は自由意志のもと組織に所属する状態が創られていく。強制や、やらされではない自律的な強い組織となるのだ。
それこそが組織と個人のあいだに信頼関係を生み、伸びる組織の基盤となっていく。
「僕の経験では法則性はないですね。もちろん経営チームとして優秀かどうかは判断しますが、組成のプロセスに関しては一定の法則はないなと思います」
前職の仲間と一緒に起業した。大学時代の友人と起業した。あるいは一人で始め、仲間を増やしていった。起業にはさまざまな経緯がある。何が正解というものではない。「優秀な経営チーム」であるよう努力を重ね、時代と事業から組織の正解を模索し続けることだという。
強み・変化・社会課題に沿った事業領域を見極め、仲間集めに妥協しない。そして個人の意志に基づく風土をつくる。そこから先、「伸びる会社」になるための正解はないのだ。
POINT ・ 創業メンバーを妥協せず集めている・ 個人の自由意志のもと組織に属している ・ 組成プロセスに成功法則性はない |
2020.07.14
文・Focus On編集部
荻野 明仁
株式会社エーアイスクエア 取締役
日産自動車を経て、アーサー・D・リトル・ジャパンにて製造業・通信業向け事業戦略立案を担当。 2001年より東京海上キャピタル(株)パートナー。バイアウト投資、ベンチャー投資を担当。 デジタルコンテンツや電力関連のスタートアップ起業の後、2015年同社設立。
>>前回(2020年7月7日公開)
創業から現在までの過程には、失敗と学び、マーケットや時代の変化があった。エーアイスクエアの軌跡から、IT・AIサービスを成長させるヒントをお届けする。
連載一覧 「営業しない営業」という創業1年目の決断 元東京海上キャピタル ベンチャー投資パートナーの目線 —「伸びる会社」の条件 01【投資家時代の軸】3つの投資テーマから見る「伸びる会社」の条件 02【組織】「伸びる会社」の組織法則 |
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