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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
00 企業価値の中に、未来を見つける
日本の全企業のうち99.7%を占める中小企業(個人事業主含む)。数にして約360万社。全労働人口の70%を占める人々がそこで働き、日本経済を支えている。
東京への一極集中が顕著である大企業に対し、中小企業は地方に遍在し、地域経済と雇用を支えている(地方に限れば、約85%以上の人が中小企業従事者ということになる)。そこに眠る価値を掘り起こし、日本経済の活性化に寄与していくココペリは、現在全国約40の地域金融機関と連携し日本中の中小企業にテクノロジーを届けることをミッションとしている。
中小企業の「誇り」に生きる近藤の情熱に迫る。
01【近藤の熱と警鐘】「中小企業」という名前がもたらす不都合
なぜ、中小企業のために事業をつくるのか。近藤は明快に答える。
「中小企業より大企業の方が『上』であるような風潮を変えたいんです」
中小企業/大企業という区分けは、あくまで経済規模の話でしかないと語る近藤。販売量や規模が大きい方が「上」である。そんな価値観に異を唱える。
「大企業は大きい経済量を動かしているから大企業なのであって、技術力の高さや地域への貢献度、そういったものとは関係がない。あくまで経済量の話なんですが、それを勘違いしている人もいるのではないかと考えています」
「上」であるのは経済量の話である。技術や熱意はそれに比例しないはずである。それを思い違ってしまえば、生まれてくるはずであった価値も失われかねない。
そうではなくて、中小企業も大手企業も対等に尊重しあい、互いの未来へ向けた社会が築かれる。それにより、中小企業の持ちうる「素晴らしさ」がもっと社会に広がり、社会を支えるはずである。
近藤の熱は中小企業に真っ直ぐに向かう。
「もうちょっとリスペクトされる名前であるべきなんじゃないかと思うんです」
名前がもたらす効果は大きい。近藤は幼いころから中小企業の誇りを目にしてきている。
「僕は愛知県出身なので、トヨタがある地元では素晴らしい中小企業をたくさん見てきました。そこで感じるのは、そもそも中小企業っていう名前がよくなくて、『技術企業』とか『地域企業』とか『未来カンパニー』とか『ベンチャー企業』とか、もっと適切な呼び方があるんじゃないかということです」
語るのは、価値観から生じる社会の可能性の問題である。「上」や「下」の関係があることで生じる、機会の消滅や不条理を強いられること。それらの状態により、社会の未来の可能性は総和として減少していないかということである。
中小零細企業が正当に評価されない社会を変えていく。近藤の思いは、日本経済への危機感に基づくものでもあるのだ。
「失われた20年ともいわれますが、たしかに給与も過去に比べたら下がっているし、海外とかだと物価はどんどん上がっているのに、日本だけすごく安くなっていて。コロナ以前はインバウンドも増えていましたけど、そこでの感覚はもはや『日本安い』になってしまっている。世界から見た日本というものに強い危機感を覚えています」
生産年齢人口は減少し、GDP成長率もゼロ成長からマイナスへと悪化の一途をたどっている。国全体として労働生産性の改善が叫ばれるなか、近藤は中小企業の置かれる構造的課題を指摘する。
「日本って労働生産性が低いといわれますが、よくよく調べると、大企業の労働生産性が一人あたり1,500万円(年間で生み出す粗利)であるのに対し、中小企業は一人あたり500万円くらいしかないんです。そこから給料や家賃やらと配分していくと、3~400万円しかもらえないというのは、構造的に当たり前というか。この構造自体を変えないと、中小企業で働く人の給与も上がらないし、消費も増えないし、日本経済は立ち行かなくなってしまう」
日本経済の主体たる中小企業の労働生産性を改善すること。すなわちそれは、日本経済を立て直す礎となる。
構造を変えるためには風土を変え、中小企業の持ちうる力がより発揮されるような環境が必要である。だから、ココペリでは日本の未来を見据え、中小企業の成長に寄与するための環境を提供している。
世界における相対的な日本の国力が弱まる今。状況を打開しうる技術力や胆力を有する中小企業の地位を向上させ、日本全体を底上げしていくことは急務でありそうだ。
POINT ・ 大企業と中小企業の差は、経済量の差でしかない・ 「中小企業」という名前は、機会損失をもたらす ・ 中小企業に眠れる力を解放することは日本経済の発展に不可欠である |
02【思いの原点】誇りをもって働く中小企業の人たち
そもそも中小企業に目を向けたきっかけは何だったのか。近藤は自身の過去を振り返って話す。
20歳の近藤は、単身カリフォルニア州サンディエゴの地を踏んだ。1年間の留学生活。そこはメキシコ国境にほど近く、街には移民も多く暮らしていたという。
「初めての海外、初めて飛行機に乗って。当時ってPCもないし、携帯もない。初めて来たから友達もいない、英語もできなくて。行った初日にホームシックになったんですけど(笑)」
一言で表すならば、とにかく衝撃的な1年間。何より近藤の胸を打ったのは、そこで働く人たちの目の輝きだった。
「アルバイトしている人たちでさえも、みんなすごく目がキラキラしていたんです。何かしら夢をもってアメリカに来てるから。その時に、それぞれいろんな価値観があって、たとえば正社員だから良いとか、大企業だから良いとかじゃなくて、自分が何をしたいのかによって、いろんな生活をしていいんだな、みたいな感覚を受けたんです」
自らの意思で求める人生を選択し、やりたいことに熱中する。成し遂げたいことのために、人生を賭して働く。そうやって生きる人たちの目の輝きは、帰国後、みずほ銀行へ就職してから出会った中小企業の経営者たちにも共通するものだった。
「新卒で金融機関に入ってから、いろいろな人と会ってきましたけど、やっぱり中小企業の経営者って魅力的な人が多いんです。いろんな苦労も多いとは思うんですが、生きてる感がすごいというか、充実して目が輝いている。それって僕がアメリカに留学していた時と似ている感覚だと思ったんです」
立場がこうだから、時代や社会がこうだからと可能性を閉ざしてしまうことなく、自らの意思に従い挑戦していく人たちに、近藤は一貫し魅せられてきた。それは近藤を突き動かしてきた原点なのだ。
だから近藤は問う。
立場や規模など関係ない。自分が「生きている」という自分の本質に生きているか?
「たとえば、上司に認めてもらうためにはどうするかの比重が大きくなると、それって本質じゃない。僕が将来、安定だけの生活を求めるなら、そういう働き方を魅力的に感じていたかもしれないですけど、あまりそういう性格でもない。だから魅力的に映っただけだと思います。正解不正解ではないですね」
生き方は人それぞれあっていい。さまざまな価値観があるなかで、自分が欲する道を選べばいい。そこに絶対的な正解はなく、誰しも尊重されるべきものであると近藤は考える。
「結局、どれだけ自分事として物事の意思決定をしているかだと思うんです」
それぞれに信念があり、それぞれに価値観があるはずだ。本来そこに上下関係はない。多様な生き方、多様な企業が誇りをもって生きる社会。そんな世界はきっと素晴らしい。
「やっぱり自分の作っているものに対するプライドとかだと思うんですよね。(中小企業の経営者は)『これすごいだろ』とか言ってくる人も多いですし(笑)」
人にとっても、企業にとっても誇りは偉大だ。それは何よりも先立つものであると近藤は考える。
「自分のやっていることへの誇り。お金でもなく、地位でもなく、これを届けたい。これで人を幸せにするんだという信念が、経営者にそれぞれあって。だから失敗しても、またすぐ続けられる」
作りあげたものが、必ずしも大きな収益を生むわけではないかもしれない。多くの人に認知され、称賛されるわけでもないかもしれない。けれど、たしかに世のため人のためになり、感謝される仕事というものは存在する。
自らの誇りがなくて、誰がそれを社会で誇れると称えてくれよう。誰を幸せにしてくれよう。
山のように失敗を重ねようと、それでも信念があれば再起できる。近藤はそういう生き方を見てきた。そして何よりも、その生き方は魅力的だ。中小企業の「誇り」は日本経済の未来の可能性を映している。
それでは具体的に何があれば、中小企業と大企業の差を埋められるのだろうか。中小企業の誇りを社会の価値に転換していくためには今何が必要なのだろうか。
全国の金融機関と連携し、各地の中小企業にも足を運ぶ近藤は、そのなかで見えてきた5つの機会とそれを支えるテクノロジーに注目する。
限られた機会を最大化できるかが中小企業の命運を握る今、テクノロジーも「ヒトモノカネ情報(時間)」という経営のリソースと同列で、当たり前に享受されるべきインフラたるべきであると同社は考えている。ヒトモノカネが経営の未来を実現する手段や要素であるように、中小企業にとっての成長の機会、それを最大化・加速・可能にする手段がテクノロジーなのである。
― ①価値を届ける機会 ―
「ネットが普及する前はできなかったと思うんですが、これからの時代は良いものが作れたら、ネットを使って世界に売ることができる、見つけてくれる人がいる」
社会との接点が物理的に限られていたインターネット以前と違い、今では大手と中小とに関わらず等しく情報発信し、顧客との接点を持つことができる。地方の小規模事業者であっても、日本全国へと技術力・商品力を届けられる機会については、積極的に活用されていくべきであるという。
― ②専門家と出会う機会 ―
「僕も金融機関にいたからこそ分かるのですが、地方に行けば行くほど、金融機関や専門家である士業の先生の果たすべき役割は大きくなると思っています」
中小企業は社外の専門家の助けを得られる選択肢が大企業と比べて少ない。必要な時に相談し、適切な専門家と出会える機会があれば、自社だけの力では乗り越えられない壁を乗り越えられる可能性は上がるだろう。
ココペリは、その選択肢を広げていく。大手企業と同じように、より適切な機会に巡り合える環境をつくる。人づての紹介や、金融機関を通じた紹介に加え、必要な場面で最適な人を探せるようにすること。それは、急速な社会変化により複雑化する経営課題への一手の最適化を担う。
― ③他企業と交流する機会 ―
「今まで銀行の中で行われていたビジネスマッチングは、年に一度、商談会というものが開催されてきました。それはそれで良い部分もあると思うのですが、でも、改善したいことって毎日あるので、それはやっぱりオンラインの方が適しているんですよね」
これまで中小企業の事業成長の一手法として、金融機関が主催するビジネス商談会があった。オフラインで一堂に会する。そこから実りある商談が生まれれば、新たな事業へと繋げられる。他社との交流は、企業が次なる一手を打ち、可能性の種をまく機会として大きな役割を果たしてきた。
だとすれば、それは限られた日程に実施されるものではなく、日々刻々と移り変わるものに対応できる方が、もっと価値あるものになるはずだ。
それを支えるのが、テクノロジーなのだ。時間と空間を越えられる。日常的にニーズの発生するビジネスマッチングも、オンライン上で、かつ地域を越えて行えれば機会を最大化できる。事業の選択肢が広がり、より多くの機会を手にすることができるようになる。
― ④効率的なコミュニケーション機会 ―
「地方の金融機関さんって、名刺交換してEightか何か登録して、いざ連絡しようかなと思うとメールアドレスが書かれていなかったりするんですよね。コミュニケーション手段が電話か訪問しかなくて。経営者とのやり取りでも、お互い不在だったりすると折り返しに折り返しで生産性が悪かったりするんです」
日常の些細なロスも、積み重なれば大きな非効率と化しているかもしれないと近藤は指摘する。
「弊社で提供している『Big Advance』内のチャット送信時間帯を見てみると、金融機関側の発信ってほぼ日中なんですが、企業経営者からの発信は夕方以降が多い。お互い連絡したい時間帯が食い違っていて、これは今まで最適化されていなかった部分だと。そういったことを両方が意識してやっていけば、中小企業の生産性は上がっていくはずです」
金融機関にとっての業務は日中に行うものだが、中小企業はその時間に事業を進めることを考えている。両者のすれ違いはこれまで慣例化されてきたが、それだけに改善の余地がある。無駄なく効率的にコミュニケーションできる機会があれば、中小企業の生産性は上がっていく。
― ⑤事業複線化の機会 ―
「いかにリスクを分散しておくか、ほかと繋がっておくかが大切になると思います」
過去、類稀なる競争力を発揮し、市場シェアを拡大・堅守した事業であったとしても、変化が当たり前の時代においては常に陳腐化のリスクと隣り合わせにある。
どんな市場環境にも柔軟に対応していくためには、事業の複線化によるリスク分散が求められる。愛知県に生まれ育ち、多くの中小企業の実態に触れてきた近藤は、身近な問題としてそれらを見てきた。
「僕の地元である愛知県でも、車一辺倒じゃなくやっている中小企業はあって。車の部品を作るメーカーを継いだ友達がいるんですが、今はゴルフクラブも作っているそうです。技術は同じらしいんですね。鉄を削り落とすという技術で」
高い技術力や顧客への柔軟な対応力など、それぞれが独自の強みを有する中小企業にとって、既存の強みを軸にして事業を再発見するポテンシャルは十分にある。
事業の本質は変えずに、リスクを分散する方法を模索する。異領域からその可能性を見出すことは事業の多様化につながっていく。そのためには、これまでの常識にとらわれず、広く市場から事業の種を見出すことが重要になっていきそうだ。
中小企業に必要な5つの機会 ① 価値を届ける機会② 専門家と出会う機会 ➂ 他企業と交流する機会 ④ 効率的なコミュニケーション機会 ⑤ 事業複線化の機会 |
日本全国の中小企業に眠る価値を掘り起こし、経済を後押しする力に変える。ココペリは事業を通じ、そのための機会を創出するテクノロジーを届ける。
「地方の金融機関や士業の専門家の方々と連携することで、我々が実現したいVision・Mission・Valueを届けようというのが、今やっている挑戦です」
使いやすく便利な機能が豊富にある。しかし、それだけでサービスのメリットを提供しきれるとは言えない。新しいサービスを導入するときの心理的障壁は、誰しも覚えがあるものだろう。まして、ITに馴染みが薄いかもしれない地方の中小企業では尚更である。
同社ではその点を考慮し、大切にする視点があると近藤は語る。
金融機関の枠を超えた情報連携を可能にするプラットフォーム「Big Advance」、金融機関向けAI与信モデル「FAI」、2,000名を超える士業の専門家とのマッチングサービス「SHARES」など、現在、同社の事業は多方面に展開している。
― 二人三脚への配慮 ―
「僕自身が金融機関にいたので、金融機関と中小企業、どうやったら双方にとって使ってもらいやすいかという点に配慮し、サービスを設計しています」
中小企業にとって、金融機関は二人三脚で歩みを進める存在である。だからこそ、中小企業だけに使いやすサービスでは成立しない。
たとえば、金融機関の担当者が『Big Advance』上でチャットを送信する際には、上長の承認がないと相手には送信されないようになっている。これは金融機関の慣習から必要とされる機能であるという。
「金融機関ではメールもそうで、上長が承認しないと送れないようになっているんです。チャットって即効性があるものだと思うじゃないですか。違うんですよ、金融機関にとってリスクは徹底的に排除されるものなので」
ココペリはただテクノロジーありきのサービスを届けたいわけではない。中小企業の発展に資するプラットフォームを創造していく。そのためには、中小企業を最も近くで支える金融機関側にとっても、使いやすいものでなくてはならないと考えている。
― テクノロジーと信頼感の融合 ―
「僕らはテクノロジーとFace to Faceの信頼感の融合と呼んでいるのですが、サービスを入れたときに、どれだけそのサービスへ信頼感があるかが重要だと思っています。たとえば、知り合いの経営者に『いいから使ってみろよ』と言われるのと、自分でネットを見て『いいかな』と思うのとでは信頼感が全然違いますよね」
知っている人からの推薦は信頼に足るものだ。ただサービスのベネフィットを提示するだけでは、一方的な情報提供に過ぎないかもしれない。しかし、知っている人からの推薦であれば、その企業・経営者の価値観、状況を加味した情報である可能性が高い。企業ごとの事情に合わせてカスタマイズされた、その企業にとって本当に意味のあるサービスとなる。
サービスが導入されればいいわけではない。企業にとって本当に価値のあるもの、企業の誇りを支えるものでなくてはココペリの願いは叶わない。
だから、同社ではサービスの信頼感を重視する。より多くの地域金融機関と連携することも、中小企業にとって信頼できる接点からサービスを届けるために重要な意味をもつ。テクノロジーが提供するメリットと信頼感の融合はココペリの芯にあるものなのだ。
埋もれた価値、成長機会、事業の可能性。企業の未来へと繋がる種を、ココペリはテクノロジーによって芽吹かせ育てていく。
2020.10.07
文・Focus On編集部
近藤 繁
株式会社ココペリ 代表取締役CEO
1978年生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業。研究テーマはData mining。みずほ銀行に入社し、中小企業向け融資業務に従事。その後、株式会社ココペリを創業し、2015年に中小企業向け経営支援プラットフォーム「SHARES(シェアーズ)」をリリース。2016年にはAI(人工知能)を活用した与信モデル「SHARES FAI」を開発。数多くの金融機関と協業展開中。
https://www.kokopelli-inc.com/
>>次回予告(2020年10月14日公開)
『後編 | 中小企業経営にとっての市場変化―持続可能な未来へどう対応するか?』
今、急激な変化にさらされる時代を、中小企業はいかに捉えるべきなのか。変化に対応できる経営基盤を持つために何ができるだろうか。自らも「中小企業」であるとする近藤の視点を伺った。
連載一覧 前編 | 中小企業の誇りのために—ヒトモノカネ//第6番目の経営要素 01【近藤の熱と警鐘】「中小企業」という名前がもたらす不都合 02【思いの原点】誇りをもって働く中小企業の人たち 03【5つの機会】中小企業のためにできること 04【ココペリのこだわり】近藤が大切にすること 後編 | 中小企業経営にとっての市場変化―持続可能な未来へどう対応するか? ※毎週水曜更新 |