Focus On
下崎守朗
ヴィアゲート株式会社  
代表取締役CEO
メールアドレスで登録
or経営者はM&A前後で何を目にし、何を思い、そして選ぶのか。「M&Aの再編集」は、自ら事業経営/M&A/PMIを経験するM&AナレッジカンパニーGOZEN代表・布田尚大氏による連載コラムです。売却額でも実務ノウハウでもない、新たな視点からM&Aのリアルを語り直し、その先のビジネスや人生を考えるヒントをお届けします。(毎月、第一月曜日に新着公開)
ローカル起業*とM&Aはめちゃくちゃ相性がいい。常々そう思っている(*東京などの超大都市以外の地域での起業)。
自分は2010年代半ばから、ソーシャルデザイン、エシカル消費、SDGsといったキーワードの仕事に関わりはじめた。その中のビッグワードの一つが地方創生で、当時は「デザインの力で地方創生」といったリブランディングプロジェクト、「個の時代」「好きを仕事に」という社会的潮流の中で、ローカル移住と起業・独立なんかが流行っていた。その流れの中で、ローカルで起業を促すアクセラレーションプログラムやインキュベーション施設がたくさん作られ、我がエリアからスタートアップを!イノベーションを!IPOを!という機運も盛り上がっていったように見える。
GOZENは現在、長野県、佐賀県などで、いくつかの起業プログラムに関わらせて頂いている。本社所在地が京都や名古屋のM&Aディールのサポート、伝統工芸領域のクリエイティブ投資なども行っているので、ローカルの起業プログラムについてお話しする機会も多い。自分はローカル起業プログラムは、もっとM&Aを意識した運営を行うといいと強く感じている。
IPOモデルとローカル起業プログラムは、実は相性がそこまでよくないのではないかとも思う。スタートアップ的流儀である「最初は赤字を掘りながらも資金調達をして、急成長して上場する」というモデルは、多産多死を前提とする。資金調達のメインプレイヤー、VC(ベンチャーキャピタル)は、100社投資して1社ホームランを出して高利回りを実現するという投資スタイルを持つ。行政が関わるプログラムも多い中、数社は圧倒的に勝利するが大半は赤字を掘ってそのまま息絶える、というモデルだけを模範にするのは、少しバランスが悪そうだ。ローカルからIPOは無理、スタートアップモデルは悪、と言いたいわけではもちろんない。スタートアップモデルが内包する構造を理解し、他の選択肢も並列する方が公共に資すると思うのだ。
そして、M&Aを意識することで、拓ける可能性がある。
一つは、ローカルのエコシステムを創出しうる点だ。ローカルにも非上場ながら売上が数十億-百億程度で、毎年しっかり利益を出す名士・豪族的な優良企業がたくさん存在する。それらの企業は豊富なキャッシュや顧客基盤を活かした、新規事業に関心がある。一方、東京の大企業やメガベンチャー、外資系企業のような派手さや知名度があるわけではないので、新規事業を興せる人材獲得に苦労しているという話をよく聞く。このような企業がアクハイアリング的な観点も含めローカルの新興企業を買収することで、ローカル起業のEXITと、名士企業の人材獲得難を同時に解決できる。堅実で身近な成功例を積み重ねることで、起業志望者も増やすことができるだろう。
もう一つは、M&Aを意識して経営することで、ローカル起業家の経営技術が上がることだ。M&Aはれっきとしたファイナンスプロジェクトであるため、事業価値評価の方法はケースバイケースだが、実際ディールする際には、その事業が将来どのくらいキャッシュフローを生み出すか、冷徹な視線にさらされる。それは、「社会性があるから儲からなくても仕方ない」「将来大きくなるから今は赤字でも仕方ない」的な、ともすると易きに流れる思考や雰囲気をピシッとさせる。毎年少しずつ成長し、雇用を生み出し、顧客を増やしていく。そんな健全な事業体を増やすのに、M&Aという目標は最適だ。この性質は、ソーシャルビジネスや小商いを推奨するプログラムでも効果的だろう。
結局は、イメージの問題が大きいのだろう。IPOと比べると、M&Aはまだまだ亜流の選択肢と捉えられることが多い。牛丼チェーンにおけるカレー、コーヒーチェーンにおけるフルーツジュースといったイメージだろうか。「M&Aを目指す起業プログラム」より「IPOを目指す起業プログラム」の方が、なんとなく座りがいい。大きな絵の印象を与える。
このイメージを変えていきたい。GOZENという屋号の由来は、M&Aの意味を180度変えること、文字面で表現するとA&Mになり、それはAM、つまり午前だという言葉遊びからきている。M&Aのイメージが変われば、ローカル起業プログラムの内容も変えられる、バラエティを増やせる。関わるプログラムで小さな成果を出しながら、M&Aの意味を変えることで生み出される、社会的価値を追求していきたい。
2026.6.1
文・布田尚大/M&Aナレッジカンパニー GOZEN
▼連載|M&Aの再編集(毎月、第一月曜日に新着公開)
#1 M&Aの不都合な真実、ピカソの絵、バリュエーション(事業価値評価)
#4 ローカル起業プログラムとM&Aの可能性
布田尚大
M&AナレッジカンパニーGOZEN代表。2022年、3年間経営したボディポジティブなランジェリーブランドfeastをM&A。4年間取締役社長としてPMIに従事し、事業成長を実現。GOZENを立ち上げ、老舗百貨店高島屋、Forbes Japanでアワード受賞企業、M&A時24歳の若手起業家の事業など、幅広いM&Aの成約をサポート。ハフポスト日本版、M&A Onlineなど、取材・執筆実績多数。
Related   
関連記事