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中小企業のM&Aには「対話」と「共創」を

経営者はM&A前後で何を目にし、何を思い、そして選ぶのか。「M&Aの再編集」は、自ら事業経営/M&A/PMIを経験するM&AナレッジカンパニーGOZEN代表・布田尚大氏による連載コラムです。売却額でも実務ノウハウでもない、新たな視点からM&Aのリアルを語り直し、その先のビジネスや人生を考えるヒントをお届けします。(毎月、第一月曜日に新着公開)


「M&Aの再編集」#5


「M&A」にまつわるイメージは、どこから?


M&Aに関わる業務は難しい、とよく言われる。ビジネスの総合格闘技、等と呼ばれ、経営戦略、財務、法務などの様々な知識はもちろん、交渉力や、長年会社を経営してきた売り手の社長と、対等に事業の話をできないといけない。動くお金も大きい。責任の大きな仕事である。


実態としては間違ってはいない。しかし、筆者は「M&Aは高度な経営技術で複雑だ」というイメージの形成要因には、超大規模の案件をプロフェッショナルとしてこなす、投資銀行・戦略コンサルティングファームの存在も大きいと感じている。


例えば、日本の鉄鋼業の最大手、日本製鉄によるUSスチールの買収。買収金額は約2.1兆円。コンビニ大手、セブン&アイHDによる、ヨークホールディングス(イトーヨーカ堂、LOFT、デニーズなどを運営)の売却。買収先は業界屈指のPEファンド、ベインキャピタルで、買収金額は約8200億円。このような、多くの人は想像も難しい金額が動く「メガディール」がある。


筆者は現在40代だが、新卒での就職活動時のグループ面接で「日経新聞の一面に載るような仕事がしたい」という志望動機を、そこそこの回数見聞きした。このような超大型M&Aに関わるのは、まさにそれを地で行く仕事。そのフィールドで投資銀行・戦略コンサルティングファームが活躍し、M&Aの高度なイメージを形成してきた側面もあるだろう。



中小企業のM&Aは、大手企業のM&Aとは競技が違う


筆者が運営するGOZENでは、概ね取引金額が10億円以下がメインで、数千万円のディールでも積極的に扱っている。そこで感じるのは、先ほど挙げたメガディールとGOZENがサポートするM&Aは、同じ「M&A」というカテゴリーの事業活動であっても、完全に別物だということ。


イメージとしては、大手企業のM&Aがメジャーリーグ、中小企業のM&Aは甲子園といった同じ競技のレベル差ではなく、大手企業のM&Aはスキー、中小企業のM&Aはテニスといった、競技自体が全く異なる、といった具合だ。


ここに、中小企業のM&Aのプロフェッショナル独自の可能性がある。大規模案件のディールを支えるのは、冒頭に挙げた経営全般に関する極めて高度な知見と、ロジカルシンキング、数値的な定量化の技術だろう。営業利益が0.1%変わっただけで何百億、何千億も収益が変わる世界。その仕事には圧倒的な精緻さが求められる。では中小企業のM&Aに求められるプロフェッショナルスキルはなにか。



分析ではない、対話の重要性


筆者はその一つとして、ワークショップのような、対話を通じての合意形成・意思をコンサルタント・クライアントで共創する技術があると思っている。メガディールで重視されるのは、膨大で複雑な情報を処理し、最適解を導き出すことだ。一方で、中小企業のM&Aでは、ディールの当事者と丁寧に対話をしながら、腹落ち感、納得感を共に作っていく方がM&Aの成功につながる。
「理想の生き方」「理想の街」にあらゆる人が肯定するたった一つの正解がないのと同じように、経営観やフィロソフィーをお互いに開示し、違いを理解し、その上で協働のあり方を探っていく。そのような合意形成について、高度な技術が求められる。


GOZENでは、実際にワークショップをよく行っている。例えば、売り手の売却戦略を考える時。よくあるのは、市場、競争環境、ビジネスプロセスなどの事業構造分析、収益性、効率性などの業績構造分析を行い、貴社にとって最適な買い手はこのような会社です、というスライド資料を作成し、プレゼンする方法だ。


しかしワークショップでは、売り手と対話し、何度も語られるキーワードやフレーズ、誇りや不安感をともなって語られる数値、ストーリー的に語られる将来のイメージなどを、A2の大きな紙に、様々な大きさの付箋とカラフルなサインペンを使いながら、拡散するように書き留めていく。経営戦略、売却希望金額、事業の可能性、個人のライフキャリアなど、レイヤーが全く異なる様々な思考の断片が広がる。このようなプロセスの中で、売り手が自ら「こういう企業さんにお渡しするのがいいと気づきました」と、自然と納得することも珍しくない。こういった技術は、中小企業のM&Aに特有な知のあり方、専門的技術だと捉えている。


こんな小難しいことを考えなくても、慣習としてロジカルシンキングと数字が重視される領域であれば、黙々とそれに従えば必要十分なのかもしれない。しかし、GOZENは事業ドメインの一つに、「ナレッジクリエイション」を掲げている。中小企業のM&Aのプロフェッショナルとして、その領域に120%フィットする、いまだない知見の開拓、創出を実践していきたい。


2026.7.6

文・布田尚大/M&Aナレッジカンパニー GOZEN




▼連載|M&Aの再編集(毎月、第一月曜日に新着公開)

#1 M&Aの不都合な真実、ピカソの絵、バリュエーション(事業価値評価)

#2 M&Aに効く “エフェクチューションという保険”

#3 M&Aビジネスのサービスデザインを開拓する

#4 ローカル起業プログラムとM&Aの可能性

#5 中小企業のM&Aには「対話」と「共創」を



布田尚大
M&AナレッジカンパニーGOZEN代表。2022年、3年間経営したボディポジティブなランジェリーブランドfeastをM&A。4年間取締役社長としてPMIに従事し、事業成長を実現。GOZENを立ち上げ、老舗百貨店高島屋、Forbes Japanでアワード受賞企業、M&A時24歳の若手起業家の事業など、幅広いM&Aの成約をサポート。ハフポスト日本版、M&A Onlineなど、取材・執筆実績多数。

https://www.gozen.co.jp/


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