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AIによる、M&Aの再編集のゆくえ

経営者はM&A前後で何を目にし、何を思い、そして選ぶのか。「M&Aの再編集」は、自ら事業経営/M&A/PMIを経験するM&AナレッジカンパニーGOZEN代表・布田尚大氏による連載コラムです。売却額でも実務ノウハウでもない、新たな視点からM&Aのリアルを語り直し、その先のビジネスや人生を考えるヒントをお届けします。(毎月、第一月曜日に新着公開)


「M&Aの再編集」#6


AIの時代だ。


ChatGPTのOpenAIやClaudeのAnthropicのメガ上場といった時事ネタから、SNSに日々溢れる「AIでこれができた」というライフハックまで、ビジネスシーンはAIで埋め尽くされている。GOZENもAI活用に取り組んでいて、GOZENのwebサイトはAIで作成した。1年前だったら数十万円を払ってweb制作会社に発注していただろう。隔世の感がある。


AIで生成したGOZENのwebサイトのトップビジュアル


AIによって、M&Aはどのように再編集されるのか。今回は、実際に現場で筆を動かしディールをサポートしている立場から、所感を綴ってみる。



初手としての、M&Aプロセスの工数削減


想定の範囲内として、DD(デュー・デリジェンス)をはじめとする、M&AのプロセスにおけるAIによる工数削減が起こる。特に過去の決算書、契約文書の精査といった、財務DDや法務DDのように、精査する情報に一定の型がある領域は、AIで圧倒的に効率化されるだろう。


もちろん、情報の秘密保持やセキュリティの課題は残る。だが、GOZENが主戦場とする比較的少額のM&Aにおいては、コスト対効果の観点から、AIによる契約書リスクの自動抽出や数値チェックが浸透していくはずだ。というか、すでに現場では実践が始まっている。



M&Aが「数字」から「言葉」になる可能性


M&Aは、ディールの成約ではなく成功が大切だ。M&Aした事業が新しい体制で狙い通りに成長するか。こうしたPMI(買収後の統合プロセス)についても、AIは大きな可能性をひらく。例を2つあげる。


1つ目。中小企業のM&Aにおいて大きな懸念点の1つは、社長の「属人性」だった。事業の魅力の多くが社長に起因している場合、退職がそのまま事業崩壊や停滞のリスクに直結する。そのため、長いロックアップ(継続勤務)期間が設けられ、それがディールの足かせになることも多い。


もしAIを使って、ファウンダーの過去の意思決定プロセスや思考の癖をストックし、活用できる体制を整えられたらどうだろう。それ以上に、組織の暗黙知をAIで一定担保できることが証明できれば、それは「社長・スタッフの人間性」や「ブランド」といった、これまで定量化しづらかった競争力の源泉、無形資産をフェアに評価する一助になるかもしれない。属人性をAIで「形式知化」することは、企業の譲渡価値を直接的に引き上げる技術になり得るのだ。


2つ目。GOZENとして最もワクワクしているのは、M&Aのサービスデザインの改変である。通常、PMIのシナリオはグッド・ノーマル・バッドといった数値を並べたExcelで、複数パターン作られる。しかし、数字の羅列だけでは、買収後に待っている生々しい日常を想像するのは難しい。そこでGOZENでは現在、AIを活用してPMIの各シナリオを「小説」として書き出し、物語として体感してもらうテストを始めている。


「もし半年後に主要顧客が離脱したら、現場ではどんな会話が交わされるのか?」


「想定通りシナジーが爆発したら、社員の表情はどう変わるのか?」


これらをストーリーとして描くことで、バイサイドは「やりきれそうか」という覚悟を固め、セルサイドは「自分の愛した事業がどう続いていくか」のイメージを深めることができる。M&Aの成功確率が、ぐっと変わってくるのではないかと思う。著名な経営学者である楠木建氏は企業の競争戦略をストーリーとして捉えることを提唱しているが、それを地でいくような活動が、AIでできるようになるかもしれない。



AIで、M&Aのナレッジを豊穣に


3~5年くらいで、M&A業界自体の構造も変わっていくはずだ。AI化の徹底で、少人数のブティック型ファームが、これまで大手が担っていた巨大案件を回せるようになるかもしれない。一方で、膨大なディールデータを学習させたAIを持つ大手が、AIが弾き出すベストプラクティスを武器に、ブティック型ファームを駆逐する可能性もある。コンビニ業界のように数社による独占状態にはならないだろうが、数年後の景色は、今とは全く別物になっているはずだ。


そんな環境の中でGOZENがAIを使うのは、単なる業務効率化のためではない。M&Aという手法の成功確率を上げ、そのプロセス自体をより豊かなものに「再編集」するために、AIを使いたい。誰もやったことのない新しい手法を考え、社会に実装していくこと自体が純粋に愉しい。儲かるか、効率的か、もちろんそれも大事だが、GOZENが追い求めたいのは、その手法がフレッシュかどうかだ。AIという新しいツールで「世界に通用する上質な資本主義をつくる」を実践していきたいと思っている。


2026.8.3

文・布田尚大/M&Aナレッジカンパニー GOZEN




▼連載|M&Aの再編集(毎月、第一月曜日に新着公開)

#1 M&Aの不都合な真実、ピカソの絵、バリュエーション(事業価値評価)

#2 M&Aに効く “エフェクチューションという保険”

#3 M&Aビジネスのサービスデザインを開拓する

#4 ローカル起業プログラムとM&Aの可能性

#5 中小企業のM&Aには「対話」と「共創」を

#6 AIによる、M&Aの再編集のゆくえ



布田尚大
M&AナレッジカンパニーGOZEN代表。2022年、3年間経営したボディポジティブなランジェリーブランドfeastをM&A。4年間取締役社長としてPMIに従事し、事業成長を実現。GOZENを立ち上げ、老舗百貨店高島屋、Forbes Japanでアワード受賞企業、M&A時24歳の若手起業家の事業など、幅広いM&Aの成約をサポート。ハフポスト日本版、M&A Onlineなど、取材・執筆実績多数。

https://www.gozen.co.jp/


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