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ミニマーケットイン型のM&Aのすすめ

経営者はM&A前後で何を目にし、何を思い、そして選ぶのか。「M&Aの再編集」は、自ら事業経営/M&A/PMIを経験するM&AナレッジカンパニーGOZEN代表・布田尚大氏による連載コラムです。売却額でも実務ノウハウでもない、新たな視点からM&Aのリアルを語り直し、その先のビジネスや人生を考えるヒントをお届けします。(毎月、第一月曜日に新着公開)


「M&Aの再編集」#7


儲かるからやる、ではない事業たちを愛している


自分はGOZENでM&Aの仕事をする前、フェアトレードファッションブランドの運営、ソーシャルグッドな音楽フェス、企業のSDGs推進にまつわる企画プロデュース、伝統工芸領域の事業支援、インパクトスタートアップの支援などに取り組んできた。M&A界隈のプレイヤーのキャリアとしては珍しいだろう。仕事のジャンルはバラバラだが、共通するものが一つある。儲かるからやる、ではなく、自分にとっての意味や社会にとっての意義を大事にして、事業を作る姿勢だ。


M&Aの仕事をしていると、多くの買い手が求めている、平たく言えば高く売れそうな業態がわかってくる。例えば、社員数が二桁規模のSNSマーケティング支援会社。比較的高い利益率が見込める人材紹介事業。時流でいえば、AIの研修やコンサルティング会社。産業構造・事業環境として、収益性の高いポジションにいる事業体だ。


自分が関わる多くの事業は、そのようなポジションにいないことが多い。でも、M&Aのニーズはある。さらなる事業成長を目指したい、ライフキャリア的にひと段落つけたい。意向は様々だが、意義から始めた事業にも、企業としての大きな決断はやってくる。


ご相談を受けた時点ですぐに動かないといけない事情がある、すでにM&Aの交渉が始まっている状態のこともある。そういった対応ももちろんするけれど、喫緊でなければ、自分は「ミニマーケットイン型のM&A」を勧めている。



プロダクトアウトで始まった事業を、少しだけマーケットインに


マーケティングに、プロダクトアウトとマーケットインという考え方がある。作りたいものから始めるか、市場が求めるものから始めるか、だ。


昨今こそ早期売却前提の起業がフィーチャーされたりするし、スタートアップであれば資金調達時にEXITプランも検討する。しかし基本的には「なんか売れる事業をやろう、儲かればなんでもいい」的な、強烈にM&Aを意識した起業は少数派ではないかと思う。多くの起業は、M&Aマーケットから見ればプロダクトアウト型なのだ。


そういった事業でも半年〜1年程度の準備期間を取れば、パーパスやMVVを変えずに、M&Aのマーケットで評価される事業ににじり寄ることは可能だ。全面的にマーケットインに舵を切るのではない。芯はそのままに、市場が見ている数カ所を改善する。だから「ミニ」である。


例えば、既存の事業モデルを活かしながら、単発ではなくストックで売上が積み上がるビジネスモデルを導入し、小さくてもいいから実績を作る。


SNSチャネルでの販売がメインだった事業に、デジタル広告施策を導入する。広告投下で伸びる余地があることを、感覚ではなくファクトで提示できるようにする。


社内のプロジェクト管理を洗練させ、事業運営の属人性を徹底的に引き下げる。人員の投下と事業成長の相関を強くしておく。


いずれも、派手な施策ではない。そして往々にして、肌感や土地勘がなくて面倒くさい、重い腰があがらない類の仕事だ。でもそのアクションは、M&A後の事業成長の可能性を、分かりやすく胚胎させる。買い手は「今までいくら稼いだか」も見るが、「自分たちが引き継いだらこの事業をどこまで伸ばせるか」も見る。その伸びしろが、資料上の主張やレトリック、アイデアブレストレベルではなく事業の中に埋め込まれている状態を作っておくと、M&Aの現場での評価が上がる場合がある。


料理の味を整えるのに似ていると思う。ベースの料理や材料は決まっているけれど、下ごしらえや調味料の使い方などで、クオリティを高めていく。



駆け引きではない、事業価値に資する準備を


M&Aの現場で語られるノウハウには交渉、駆け引きみたいな話も多い。それらも大事だ。でもGOZENが発信したいのは、本質的かつ比較的短期間で事業価値を向上させうる、M&A屋ならではのノウハウである。


こういった知見が広まれば、想いや意義から始めたビジネスにも、M&Aの選択肢がより広く開かれる。儲かる業態で起業した人だけがM&Aで報われる、という構造は少し寂しい。意義から始めて、育てて、しっかり託す。そんなビジネスの可能性を広げていきたいと思う。


2026.9.7

文・布田尚大/M&Aナレッジカンパニー GOZEN




▼連載|M&Aの再編集(毎月、第一月曜日に新着公開)

#1 M&Aの不都合な真実、ピカソの絵、バリュエーション(事業価値評価)

#2 M&Aに効く “エフェクチューションという保険”

#3 M&Aビジネスのサービスデザインを開拓する

#4 ローカル起業プログラムとM&Aの可能性

#5 中小企業のM&Aには「対話」と「共創」を

#6 AIによる、M&Aの再編集のゆくえ

#7 ミニマーケットイン型のM&Aのすすめ



布田尚大
M&AナレッジカンパニーGOZEN代表。2022年、3年間経営したボディポジティブなランジェリーブランドfeastをM&A。4年間取締役社長としてPMIに従事し、事業成長を実現。GOZENを立ち上げ、老舗百貨店高島屋、Forbes Japanでアワード受賞企業、M&A時24歳の若手起業家の事業など、幅広いM&Aの成約をサポート。ハフポスト日本版、M&A Onlineなど、取材・執筆実績多数。

https://www.gozen.co.jp/


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