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横田裕子
株式会社AZOO  
代表取締役
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or経営者はM&A前後で何を目にし、何を思い、そして選ぶのか。「M&Aの再編集」は、自ら事業経営/M&A/PMIを経験するM&AナレッジカンパニーGOZEN代表・布田尚大氏による連載コラムです。売却額でも実務ノウハウでもない、新たな視点からM&Aのリアルを語り直し、その先のビジネスや人生を考えるヒントをお届けします。(毎月、第一月曜日に新着公開)
映画やドラマ、小説などのフィクションで、M&Aは、たいてい災難として描かれる。今年公開され、国内興行収入が50億円を超えるヒットとなった「プラダを着た悪魔2」。現在はディズニープラスやAmazonプライム・ビデオなどで視聴が可能なこの映画も、例外ではなかった。以下、ネタバレを含むのでご注意を。
2006年公開、世界で500億円超の大ヒット作品「プラダを着た悪魔」はこんな世界観の映画だ。
舞台はニューヨークの一流ファッション誌「ランウェイ」。業界の流行すら左右するこの雑誌に君臨するのが、冷徹で完璧主義の編集長ミランダ。主人公のアンディは、ジャーナリストを志しながら、ひょんなことから彼女のアシスタントになり、トレンドを追うだけの浅はかなメディアと思っていたファッション誌の魅力に目覚めていく。
ミランダのモデルは米「ヴォーグ」元編集長、アナ・ウィンターだと言われている。アナ・ウィンターはファッション産業への貢献で、イギリスから大英帝国勲章が、アメリカから大統領自由勲章が授与されている。史実に基づく映画ではないが、現実でも圧倒的なパワーを誇っている人物だ。
このように、前作で絶頂を極めていたランウェイ誌と編集長ミランダ。インターネット、SNSの攻勢という時代のうねりの中で、今作は苦境に立たされている。様々な人間関係とビジネス上の事情が絡み合った末、ランウェイ誌はIT成金の私的なモチベーションによって買収されかける。
このままでは、ランウェイ誌の哲学が失われる。アンディとミランダは手を組み、取材で縁のあった著名な富豪クリエイターに助けを打診。そのクリエイターがパトロンとして名乗りを上げ、「あなたたちが作りたいクリエイションを、存分にやってね」的なエールで、物語は大団円を迎える。
自分はプラダシリーズが好きだし、今作も存分に愉しんだ。そのため、これは映画の批評ではない。M&Aを生業にする人間として、スクリーンの向こう側にある、現実のM&Aシーンへの含意を考えてみたい。2つある。
1つ目は、M&Aの描かれ方だ。
作中の買収は、金にものを言わせた乗っ取りであり、買った後には好き放題にされることが示唆される。この構図は、日本のM&A小説の金字塔『ハゲタカ』をはじめ、「あるある」の描かれ方だ。
理不尽なエコノミック・アニマルの来襲と、文化を守るため奮起する防衛者。エンタメとしては面白い。でも、実態とはだいぶ異なる。
理由はシンプルで、そんなことをしたらPMI(M&A後の統合)がうまくいかないからだ。事業の価値は、そこで働く人、培われてきた関係性、数値化できない無形資産の中にも宿っている。もちろん一定の合理化や効率化は必要だろう。ただ、無配慮に文化を踏みにじれば、人が去り、取引先が離れ、買ったはずの価値が目減りしていく。買い手は、売り手や残されたスタッフ、売却企業のフィロソフィーを、世間のイメージよりは大事に扱う。大事に扱わざるをえない、と言ってもいい。
もちろん、数多あるディールの中には非情なものもあるだろう。ただそれは、M&Aのメインでは間違いなくない。ドラマと現実は違う。
2つ目は、あの終わり方は本当にハッピーだったのか、という問いだ。
冷静に考えると、ランウェイ誌が時代の変化にややついていけず、苦境に立っている事実は何も変わっていない。クリエイティブに理解のある圧倒的な富豪が、パトロン的に手を差し伸べた。それだけだ。
悪くないシナリオではある。でも、パトロンに救われることは、パトロンに依存することでもある。依存は、新しい忖度や主従関係を生むかもしれない。
そして何より、別の可能性を閉ざしてしまう。ビジネスの視点を持ち、かつフィロソフィーをリスペクトしてくれる会社と組んで、真摯にビジネスモデルを革新していく、という道だ。
M&Aは、売却企業のカルチャーを根絶やしにするものではない。変化への触媒にもなりうる。守るための買収ではなく、変わるための買収。ドラマとしては複雑になりすぎるから、この結末は描けないだろう。2時間の映画には収まらない、地味で、粘り強い営みだからだ。そんな触媒的なM&Aを、GOZENで粛々と手がけていきたい。
2026.10.5
文・布田尚大/M&Aナレッジカンパニー GOZEN
▼連載|M&Aの再編集(毎月、第一月曜日に新着公開)
#1 M&Aの不都合な真実、ピカソの絵、バリュエーション(事業価値評価)
#8 【ネタバレあり】「プラダを着た悪魔2」から考える。エンタメの中のM&A劇は、リアルなのか
布田尚大
M&AナレッジカンパニーGOZEN代表。2022年、3年間経営したボディポジティブなランジェリーブランドfeastをM&A。4年間取締役社長としてPMIに従事し、事業成長を実現。GOZENを立ち上げ、老舗百貨店高島屋、Forbes Japanでアワード受賞企業、M&A時24歳の若手起業家の事業など、幅広いM&Aの成約をサポート。ハフポスト日本版、M&A Onlineなど、取材・執筆実績多数。
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荻野明仁
株式会社エーアイスクエア  
取締役